2017/05/04

『古事記傳』14-1 神代十二之巻【大國主神國避の段】

口語訳:そこで天照大御神は、「今度はどの神を遣わしたらいいだろう」と言った。思金の神とその他の諸神は

 

「天の安河の川上の天の石屋にいる伊都之尾羽張神を遣わせばいいでしょう。そうでないなら、その神の子の建御雷之男神がいいでしょう。ただしその天尾羽張神は、天の安河の川水を塞き止めて(水を他に分けて)、道を塞いでいるので、他の神は彼の所まで行くことができないでしょう。そこで別に天迦久神を彼の所へ遣って、意志を問わせたらいいでしょう」

 

と言った。そこで天迦久神を使いに遣った。すると天尾羽張神は

 

「かしこまりました。お仕えしましょう。しかし今回のご用件は、私の子、建御雷神が適任だと思います」

 

と言い、その子を返答のために差し向けた。そこで天鳥船神を副将に付けて、建御雷神を地上の国に遣わした。

 

口語訳:この二柱の神は出雲国の伊那佐の小濱に到着し、十掬剣を抜いて波頭に逆さに差し立て、その剣の先端に胡座を組んで座り、大国主神に問いかけて

 

「われわれは天照大御神と高木の神の詔によって、問いに来た。あなたが支配している葦原の中つ国は、天照大御神の御子が治めるべき国だと仰っている。あなたの気持ちはどうだ」

 

と訊くと、大国主神は答えて

 

「私は何とも答えられない。私の子、八重事代主神が答えるべきところだが、鳥遊びと魚取りのために御大の崎に行って、まだ帰ってこない」

 

と行った。そこで天鳥船を遣って、八重事代主神を連れてこさせ、同じように訊ねると、彼は父の大神に

 

「恐れ多いことです。この国は天神の御子に奉りなさい」

 

と言って、船を踏み傾け、天の逆手を打ってその船を青柴垣に変え、そのまま隠れた。

 

口語訳:そこで大国主神に

 

「いまあなたの子、事代主神はあのように言った。他に意見を言う子がいるか。」

 

と訊ねた。大国主神は

 

「もう一人、建御名方神がいる。彼の他にはいない」

 

と答えたとき、その建御名方神が、手に千引石(千人でなければ動かせないような大きな岩)を手のひらに載せてやって来て、

 

「誰だ、私の国に来て、ひそひそとそんな話をしている奴は。それなら力比べをしよう。まずあなたの手を私に取らせよ」

 

と言ったので、手を彼に握らせた。ところがつかんだその手は、つららのような氷と化し、また剣と化した。建御名方神は驚き恐れて退いた。次に今度は(建御雷神が)建御名方の手を取らせよと言ってつかんだところ、生え出たばかりの柔らかい葦を握るようにひしゃげた。そのまま遠くへ放り投げた。建御名方は逃げ出した。それを追って、ついに信濃の国の諏訪の湖まで追い詰め、殺そうとしたところ、建御名方神は

 

「かしこまりました。私を殺さないでください。私はこの地に留まって、どこにも行きません。また父大国主神の命に従います。事代主神の言った通りにします。この葦原の中つ国は、天神の御子の御心のままに献げましょう。」

 

と言った。

 

口語訳:さらにまた戻って来て、その大国主の神に

 

「あなたの子たち、事代主神、建御名方神の二人は、天神の命に従うと言っている。あなたの心はどうだ」

 

と訊ねた。すると大国主神は

 

「私の子たちの言う通り、私も従おう。この葦原の中つ国は、天神の詔のままに、ことごとく差し上げよう。ただその後の私の住処は、天神の御子が住んで世をお治めになる宮と同様に、どっしりと宮柱が太く、千木を空高く掲げて造ってくだされば、私は黄泉の国に隠れよう。私の子の百八十神たちは、事代主神が指導者として天神に仕えたなら、反逆することはない。」

 

こう言って、更且還來(さらにまたかえりきて)は、信濃から出雲へ戻って来たのである。

 

口語訳:出雲の国の多藝志の小濱に御殿を建てて、水戸神の孫、櫛八玉神を膳夫(料理長)として、料理を献げるとき、言壽ぎして、櫛八玉神は鵜に姿を変えて海に入り、海底の土をくわえてきて多くの平瓮(平たい土器)を造り、海藻の茎を刈って火燧の臼とし、海蓴(こも)の茎を火燧の杵として、火を起こして言うには、

 

「この私が起こした火は、高天の原の神産巣日命の新しい宮殿の御厨に届いた煤が、どっさり溜まって長く垂れるまで炊きあげ、地の下では底の底まで焼き固める。白い長い延縄を引き回して漁をする海人が大きな鱸を非常にたくさん捕らえ、引き寄せあげると、竹の簀もたわわに、献げ物の魚の料理を奉る」

 

と言った。建御雷神は天に返り、葦原の中つ国を平定した様子を報告した。

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