ゾロアスターという人物は、先に示したようにはっきりした年代は分かっていないのですが、一応伝承によって紀元前600年代から500年代、ペルシャが台頭してきた頃を生きた人物であると考えられています。
当時のことですから、大半のペルシャ人と同様に遊牧民であったことが、その両親の名前などから推定されています。
しかし伝承によると、どうも幼い頃から宗教儀礼の仕事に関心をもっていたようで、20際頃に放浪の旅に出ているようですが、30歳頃に神からの啓示を受けたとされます。
それは春の季節祭の時、とされます。
夜明け前、ハオマという植物から汁を搾って神に捧げる儀式を執り行うため、水を求めて近くの川に出かけ、戻ろうとしたその瞬間に彼は光り輝くものを見たといいます。
この存在は一説では「善思の神ウォフ・マナフ」であったとされるようですが、ともかくこの神に導かれて彼は「最高神アフラ・マズダ」と、彼に仕える神々の下へと赴き、ここで彼の魂が開示されたといいます。
このタイプの神ないし天使との出会いは、後代のイスラームの開祖ムハンマドにもあります。
ちなみにイエスや仏陀に、これはありません。
またモーゼなどのユダヤ教の預言者達は、神の声を聞くだけでした。
こうして最高神アフラ・マズダによって魂を開かれたゾロアスーは、その後も何度となく神の幻と出会い、その教えを授けられていったとされます。
そして困難な伝道の末に理解が得られ、ペルシャの国教となっていったというわけでした。
●ゾロアスター教の思想
通常ゾロアスター教は「善・悪」二元論として説明されます。
善神であり最高神とされる「アフラ・マズダ」の他に、独立的存在として悪神がおり対立関係を形成しているからです。
それぞれに、その配下として多くの神がいるという構造をしています。
この善・悪二元論による神体系の基本構造は、現実社会のあり方を良く説明するので理解しやすそうですが、神の体系としては非常に特徴的なのです。
そのあり方は同じ中東のセム族とも、近隣であり悪神もいるエジプトとも、ペルシャと同族であるインド・ヨーロッパ語族の代表格であるギリシャとも、全く異なっています。
善・悪二元とはいっても、もちろん中心になるのは善神の方で、人間はこちらにこそ従わねばならないとされるのは当然でした。
つまりゾロアスター教での最高神はアフラ・マズダとされ、この神は(「悪の世界」をのぞけば)全知全能であり善の創造者であって完全であり欠けるところがなく、光明で世を満たす存在とされます。
これも一見当たり前のように見えますが実はそうではなく、一神教となるユダヤの神の系譜、つまりキリスト教・イスラームの神が結局こうなるため、現代の私達には当たり前に見えているだけで、古代世界ではものすごく珍しいといえるのです。
というのも、古代の神というのは自然力の人格化でしたから、人間世界の反映という性格を強く持ち、強力ではありますが人間的で、したがって感情的で、過ちも犯し、恣意的だからです。
ですからユダヤ教の神が、そのヘブライ神話に見られるような人間的感情を持つ神から、唯一絶対の神となっていくのには、そのユダヤ民族を解放し支配したペルシャのゾロアスター教の影響が大きかったと考えられるわけでした。
●天地創造
アフラ・マズダは、宇宙の創造主であることは指摘しましたが、この創造神話もなかなか興味深いものがあります。
それによると、彼は365日かけて六段階で宇宙を創造していきます。
ということは、一年が365日であることを知っていて、この一年を六つに分けているわけですが、ただしこれは等分ではありません。
しかし、季節のあり方が投影されている感じはします。
ヘブライ神話が七日の創造になっているのに比べ、一年というその創造神話にはある種の自然的事物の持つ季節的合理性が伺えるような気もします。
ただし創造の順序については、ヘブライ神話も似ています。
その創造の順序は、次ぎのようです。
第一段階は「天、および天体」・・・40日
第二段階は「水」・・・55日
第三段階は「地」・・・70日
第四段階は「植物」・・・25日
第五段階は「動物」・・・75日
第六段階は「人間」・・・70日
第一段階で空や星がつくられますが、ここで十二宮の他648万の星々がつくられ、これらは「悪神」との戦いに備えてであるとされています。
つまりアフラ・マズダは、始めから悪神の存在を知っていたのでした。
第二段階で、水は水の女神アナーヒターの泉より発して大海へ注いだ、となります。
次いで第三段階で泥水から大地が創造された、とされます。
そこに大きな山が隆起し、その山頂の東西に窓があり太陽は毎日東の窓から出て西の窓に入った、とされます。
そして、世界は七つに区分されます。
さらに神が、ここに16の国を造ると、悪神はこれに対抗する災厄を作り、その繁栄を妨害しようとした、といわれます。
第四段階で、大海の真ん中に一本の巨大な木が創造され、ここから数万の植物が生まれたとされます。
第五段階で、最初に創造されたのは白く輝く牡牛であったとされ、この原始牛は悪神の攻撃を受けて殺されたが、その精液は月に運ばれてそこから一対の牛が産まれ、続いて様々な動物が生まれ、大地、空、海へと住み分けられたと言われます。
最後の第六段階で、人類の祖「ガヨーマルト」が創造された、となります。
※ http://www.ozawa-katsuhiko.com/index.html 引用
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