II 地域による食材、料理の特徴
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主食の多様化
近代以降、日常食の一般的な形は飯、汁、菜、漬物であることはすでに述べたが、細かくみると地域差があり、主食も飯ばかりではなく、地域の環境に合わせて生産される穀類、雑穀類を組み合わせた食事が工夫されてきた。とりわけ、水田が十分に確保できなかった山間部では、小麦や雑穀の栽培が行われた。また、米の不足を補うために米に雑穀、大麦を混合した飯を炊くところ、大麦のみを主食とするところなどがみられた。
下記は、地域差が大きかった1930年頃に主婦であった人たちへの聞き取りをまとめた資料から、山間地域の秋の朝食と夕食をまとめたものである。
青森(七戸)朝食:粟飯、干し菜汁、なす油炒め、漬物。夕食:粟飯、鯨汁、漬物
福島(只見)朝食:かぼちゃ飯、みそ汁、煮物油みそ、漬物。夕食:米粉の団子汁、煮物、漬物
群馬(中里)朝食:麦飯、前夜のうどん汁、油みそ、漬物。夕食:うどん、かぼちゃ煮物、漬物
山梨(棡原)朝食:麦飯、前夜の煮込み汁、漬物。夕食:煮込みうどん、煮物、漬物
長野(開田)朝食:稗粉飯、みそ汁、油みそ。夕食:かぼちゃ雑炊、干し魚、酢の物、漬物
宮崎(高千穂)朝食:から芋飯、みそ汁、漬物。夕食:麦飯、かいきり、煮しめ、漬物
朝食の食事構成は、飯・汁・菜・漬物の構成であるが、主食の飯の内容が米に麦や雑穀を高い比率で含む飯が多い。
米に混合する大麦は、前述したように丸麦のまま利用する場合には、米を混合する前に、あらかじめ煮ておくなどの処理が必要であった。多くは、囲炉裏などで前日から煮ており、これを「えます」という。米に混合せず、大麦のみを加熱して「おばく」などと称して食す場合もある。丸麦は、処理に時間がかかったために、丸麦を臼にひいて割り麦にしたひき割り麦も使われたが、昭和に入ると精白し加熱圧迫した押し麦がつくられるようになり、これを米に混合して炊くことが一般化した。
また、群馬、山梨の例にみるように、夕食に粉食のうどんが主食となる地域も比較的多く、現在にまで伝承されている。たとえば、山梨県のほうとう、神奈川県相模原に残る煮ごみなどは、現在に続く郷土料理ともいえる。
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食材の地域性
日本は、北から南に細長い列島で山が多く、海に囲まれており、気候が地域により異なるために、生産される農産物なども異なるものが多い。
農産物でみると、芋類のうち、さつまいもは九州など南部で多く作られ、冷害に強く、冷涼な地に生育するじゃがいもは、どちらかといえば山梨、長野などの山間部や日本の北部で利用されてきた。さつまいもは、沖縄、長崎、鹿児島において、さつまいも飯のほか、甘藷まんじゅう、干しいもを使って発酵させて作る酢芋、でんぷん(せん)製造、団子や麺の加工など多様な調理、加工食品が作られた。
また、豆類も地域差が大きく、そら豆の分布は西日本から関東、石川県に分布している。また、枝豆は全国に分布するが、それをすり下ろしてじんだまたはずんだ等と称し、もちなどの餡やあえ物の衣にする地域は東北地方に集中している。青大豆を浸し豆、打ち豆にする地域も東日本に限られ、糸引納豆も主として東日本に分布し、納豆汁納豆餅は東北に分布するなど大豆の分布とは異なる分布をしていることは、単に地域の自然環境だけの影響とはいえない。
魚介類も地域性が大きい。かつおは、南方から春に太平洋岸を東北地方まで北上し、秋には南下するために、静岡、宮城など太平洋側で漁獲され、食べられてきた。また、サケも、北海道、東北など北日本で獲れる。これに対して、ブリは晩秋から冬に北陸など日本海側で多く漁獲される西側の魚といえる。そのために、正月の行事には東側がサケ、西側ではブリを使う文化が定着している。また、真タイは、現在養殖が多いが天然のタイは、九州、西日本で多く獲れる。マグロは日本全体に分布するが、江戸時代の中期以降、それまで下魚とされていたマグロを江戸で刺身や握り鮨に使うようになり次第に好まれるようになった。しかし、西日本では、タイなど白身の魚を好む習慣が続き、現在でもマグロの消費量は東日本が多い。また、サバは全国に分布するが、サバずしは西日本に集中しているなど地位以西がみられる。
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調味料の地域性
みそ、醤油などの発酵性調味料は、日本料理の味のベースとなっていることは、すでに述べたが、同じみそやしょうゆでもその味の好みは地域により作り方や材料にちがいがある。しょうゆは比較的早くから商業的に製造されたのに対し、みそは各家でもつくられ、より多彩なみそがうまれた。みそは、その製法、材料により大きく3種に分けられる。1種は米みそといわれるみそで蒸した大豆に塩、米こうじを加えて発酵させたもの、麦こうじを加えたものを麦みそ、大豆を原料とするみそ玉こうじをもとにするものである。
しょうゆは、JAS規格によりこいくち、うすくち、たまり、再仕込み、しろに分類される。主に関東地方で発達した醤油は濃い口で、大豆、小麦が50%ずつに塩分16~17%のものである。また、兵庫県竜野地方でつくられる醤油は、薄口しょうゆが多くつくられている。材料は濃い口と同様であるが、発酵の過程が異なり、塩分は18~19%程度とやや多く、関西で多く使われる。また、しろ醤油は、原料のほとんどが小麦で、わずかに大豆が使われる。愛知県が主産地で、淡白で糖分が多い薄口よりさらに透明度の高い醤油である。下記に主な味噌とその特徴を示した。
津軽みそ:長期間熟成させる辛口赤みそ系
仙台みそ:江戸初期に製造がはじまった辛口赤みそ系
信州みそ:明治になり赤系から好みが山吹色の淡泊なみそにかわりつくられた淡色系の辛みそ
江戸甘みそ:通常のみそよりこうじを多く、塩を少なくした赤系の甘さのあるみそ
西京みそ:関西の甘味のある白みそ
西京漬けなどにもつかう
讃岐みそ:香川のあん餅雑煮などにつかう甘味のある白みそ
麦みそ(九州・四国・中国):山吹色を帯びた甘味のあるみそと赤系
豆みそ(三州みそ・八丁みそ):米、麦のこうじを使わない濃い赤系みそで独特の風味をもつ味噌煮込み、みそかつなどで全国に知られた
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