2017/05/14

ペルシャの神々とゾロアスター教

 紀元前600年代に入って、それ以前2500年に渡り中東全域に展開し、この広大な領域を支配していたセム族は衰退していきます。

代わって、北から東にかけては新たに「インド・ヨーロッパ語族」に属する「メディア・ペルシャ」が台頭してきて、500年代に下がって中東領域は「アケメネス朝ペルシャ」と呼ばれる「ペルシャ人」の支配地となっていきました。

このペルシャがバビロニアに滅ぼされ、その地に捕らわれていたユダヤの民を救いだし解放者となる一方、国家的には支配したわけで、ペルシャのユダヤに対する影響は限りなく大きかったと思われます。
 
 この「ペルシャ」というのは「イラン」のことです。

イランというのは、インド・ヨーロッパ語族の一つ「アーリア族」の名称の訛ったものです。

ですから、このイランという名称の方がずっと古く、また広く適応されます。
 
 一方、私達が文化を問題にする時には、その文化が発祥・発展した当時の名称を用いるのが普通なので、昔のイラン人の文化は「ペルシャ文化」という言い方をするのでした。

このペルシャ文化は様々の面で優れた特色を見せており、宗教についてもゾロアスター教を持っていたことで有名です。

●ゾロアスター教
 このゾロアスター教というのは「ゾロアスター(ゾロアストラ、ザラスシュトラ)」という人物によって、古代アーリア民族つまり「ペルシャの神話」を基盤に創設された宗教ですが、彼の生年には諸説があってよく分かっていません。

一般には一応、紀元前600年頃としています。

 ちなみに、もしこのゾロアスターの時代を紀元前600年から500年にかけてとする説に従うならば、同じ中東の西のパレスチナ地方でヘブライ(ユダヤ)神話から「ユダヤ教」が確立されていく時代と一致します。

また、この年代はペルシャ人と同じアーリア民族の出であるインドで、仏陀によって仏教が提唱されていく時代であり、遠くギリシャにあっては世界を神話ではなく科学的に説明しようという純粋に学問的な自然哲学などが出現した時代であって、人類が世界や人間について本格的な意識を持ち始めた時代であった、と言えます。
 
 ゾロアスター教が良く知られているのは、かつてペルシャ民族がイスラームに征服されるまでは、ペルシャの国教としてペルシャ人全体の宗教であり、今日でもインドを中心に十数万の信者を持つということ以上に、その思想が周辺民族から西洋・東洋にまで多くの影響を与えてきたからです。

ゾロアスター教は、チャイナにも大きな影響を与え「」を特別視していたことから「拝火教」とも呼ばれていました。

 一方、その土台となっているペルシャ神話というのも、このゾロアスターを境目として三段階に分けて考えることができ、ゾロアスター教によってまとめられて展開されたペルシャ神話は、今日のイスラームとなっているイラン人にとっても、自分たちのアイデンティティーの源泉となっていると考えられます。

 先ず一段階目は、ゾロアスター以前のペルシャ神話となります。

これは文字化されることなく口承で伝えられていたもので、この多くがゾロアスター教に採り入れられていると考えられています。
 
 第二段階がいうまでもなくゾロアスター教で、神話的に語られていた神々のあり方が一つの体系の中に位置づけられ、明確な性格付けが行われてきます。

ゾロアスターの教えは、後代に編纂された聖典アヴェスタに記録され、それは中世ペルシャ語文献に残されてきましたが多くが散逸し、のちに編纂し直された現在の聖典は、原典の四分の一程度になってしまっていると言われます。

その聖典の最古の部分を特にガーサーと言い、教祖ゾロアスターの言葉とされます。

それ以外はゾロアスターの死後に付加されたもので、古代ペルシャ神話やそれ以外の宗教、例えばミトラ教の影響なども見いだせるとされます。

この他に、ゾロアスター文書としてササン朝ペルシャおよび中世ペルシャ語で書かれた諸文書があり、これは中世ペルシャ語がパフラヴィー語と呼ばれるところから「パフラヴィー語神話」と呼ばれますが、この文書に書かれた神話は古代ペルシャ神話に基づいているため、散逸したゾロアスターの聖典の不備を補っているとされます。

 第三段階は、紀元後1010年、フィルダウスィーという詩人が近世ペルシャ語で書いた「民族叙事詩」であり、これを『シャー・ナーメ』と呼んでいます。

これは、主に今示したパフラヴィー語神話に基づいているとされますが、すでにペルシャ神話がイスラーム化した後に書かれているため、その神話も「イスラーム化」しており、従って「唯一神アッラー」しか神はでてこないわけで、またかつて神とされていた神格も、全て人間の英雄にされてしまっていますし、またゾロアスター教とは無関係の人物まで登場してきてしまいます。

それでも、典拠がゾロアスター教時代のパフラヴィー語神話であるため、その精神は十分に残され、古代ペルシャ以来のペルシャ人のアイデンティティーは失われていないと考えられています。

 そのイスラーム化についてですが、そもそもゾロアスター教自体は多神教善悪二元論ではあるのですが、最高神としてアフラ・マズダがおり、この神の性格は唯一神へあと少しくらいの位置にいるため、ペルシャ人はイスラームの唯一神へと改宗するのに、さほどの抵抗感もなかったのかもしれません。

そうはいっても完全に改宗ではあるわけで、したがって伝統的なゾロアスター教を守ろうとする人々の多くは隣のインド方面に逃れ、そこでゾロアスター教を守っていこうとしました。

そのため、今日でもインドのボンベイ周辺がゾロアスター教の本拠になっているわけでした。

 一方、現代のイラン人はイスラームとなったわけですから、当然このイスラーム的にまとめられた『シャー・メーナ』をもって、自分たちの民族神話としています。

しかし、ここには創世神話など、ゾロアスター教時代のものは省かれています。

一方で創世神話も別途残ってきているので、ペルシャ神話の詳しい姿を再現することができています。

ということは、やはりペルシャ人は太古の昔からの自分たちの民族のアイデンティティーに関わるものは、たとえイスラームに改宗しても残してきているということです。
※ http://www.ozawa-katsuhiko.com/index.html 引用

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