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この作品は、クラシック音楽といえば常についてまわる「精神性」とは異なった地平に成り立っています。深遠な思想性よりは軽やかで輝かしさに満ちた、ある意味では20世紀の音楽を象徴するようなエンターテイメントにこそ、この作品の本質があります。
ラヴェルは1928年に4ヶ月間に渡るアメリカでの演奏旅行を行い、大成功を収めました。その成功に気をよくしたのか早速にも2回目の演奏旅行を計画し、その時のために新しいピアノ協奏曲の作曲に着手しました。途中、「左手のためのピアノ協奏曲」の依頼が舞い込んだりしてしばしの中断を強いられましたが、1931年に完成したのが、この「ピアノ協奏曲 ト短調」です。
これは、ある意味では奇妙な構成を持っています。両端楽章はアメリカでの演奏旅行を想定しているために、ジャスやブルースの要素をたっぷりと盛り込んで、実に茶目っ気たっぷりのサービス精神満点の音楽になっています。ところが、中間の第2楽章は全く雰囲気の異なった、この上もなく叙情性のあふれた音楽を聴かせてくれます。とりわけ冒頭のピアノのソロが奏でるメロディは、この上もない安らぎに満ち、もしかしたらラヴェルが書いた最も美しいメロディかもしれない、などと思ってしまいます。
ところが、この奇妙なドッキングが聞き手には実に新鮮です。まさに「業師」ラヴェルの真骨頂です。なお、この作品はラヴェル自身が演奏することを計画していましたが、2回目の演奏旅行の直前にマルグリット・ロンに依頼することに変更されました。初演は大成功を収め、アンコールで第3楽章がもう一度演奏されました。その成功に気をよくしたのかどうかは不明ですが、作品は初演者のマルグリット・ロンに献呈されています。
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