「200年に一度の大不況」といわれ続けてきながら、イマイチ実感がなく
「例によってマスゴミが、オーバーに騒ぎ立てているだけじゃないのか?」
などと楽観的に構えていた極楽トンボも、いよいよ「200年に一度の大不況」を実感せざるを得ない状況に追い込まれてきた。特に春から夏にかけては、まったくと言っていいほど仕事の話がパッタリと途絶えた。知り合いの営業は言うまでもなく、遂には5年前に上京した時に貰った名刺まで引っ張り出し、これはと思う相手には片っ端から声をかけてみたものの、移動や転籍で居なくなっていたり、メールアドレスが「宛先不明」で帰ってくるものも多く、また連絡がついた誰もが
「仕事がまったくない酷い状況で、こんな経験は初めてだ」
と、異口同音に嘆いていた。
「仕事があれば紹介したい気持ちはヤマヤマですが、なんせ自社の技術者に出す仕事すらなく、遊ばせているような困った状況なので・・・」
どこの誰に聞いても、聞こえて来るのは想像を遥かに超えるような、酷い話ばかりなのである。
これまでなら週に3回以上は入るはずの面接も、週に1度でもあればいい方で、それもクライアント面接に至るまでに「一次」、「二次」(酷いのは、それ以上)面接をこなさなければならない。その時点で、1人の採用枠のところに既に10人以上が面接に来ているという、あたかも「砂糖に群がる蟻」のような状況が当たり前の図式になっていた。
勿論、面接の前には書類審査があって、ここでその数倍が振り落とされているのだから、実際の倍率は数十倍だ。そこまでやっても実際には一人も採用しなかったり、予定していた予算が取れずにプロジェクトそのものが延期や、構想のみで空中分解になったりするケースも多かった。面接での手応えはあっても、従来のようにそれがなかなか結果に結びつかないケースが続いたことで、親しい何人かの営業に
「無駄な面接は、避けたい意向で・・・」
と申し入れたが
「これくらい、面接の引き合いがある人はあまりいないですよ・・・他の技術者は、殆ど書類で弾かれて面接までこぎつけるのも大変なんですから・・・」
などと口をそろえていた。
このように、過去に例のないような「買い手市場」だけにクライアントは強気一辺倒で、先に触れたように1人分の採用枠しかないのに、少しでも安くいい人材を得ようとあちこちのパートナー企業に声をかけているから、そのパートナー企業のそれぞれが、また自分のパートナーに声をかけてというネズミ数式のような図式となって、応募者が殺到する。数十人全部は面接しきれないから、書類審査である程度の篩をかけて実際に面接に呼ばれるのは10人程度だ。
一次~二次面接で、さらに5~6人に絞られた最終候補だけが、ようやくクライアント面接にたどり着けるが、ここまで来ているのだから皆それなりにスキルは高く、通常であれば直ぐに決まっているはずである。
ところが、クライアントの要求はもっと高かった。非常識なほどに・・・結果は「該当者なし」となったり、先にも述べたように予定していた予算が確保できず、決まりかけていた構想そのものが宙に浮いたり、あるいは実質的に消滅したりといった暴挙が平然と繰り返された。
スキルの高いものが採用されても、単価が信じ難いほど安くなっていた。相場を2割下回るくらいはまだ「御の字」で、酷い場合は3割以上も下がっていた。スキルの高い高収入の者ほどその打撃は大きく、ある営業に聞いた話では、それまで年収800万くらいで契約していた技術者でも、600万以上を確保するのはかなり難しい状況で、場合によっては500万辺りまで叩かれてなんとか交渉が出来ている、といったケースも珍しくなくなっていたらしい。
企業は軒並み、新卒者の「内定取り消し」という暴挙に出た。これはあまりに酷いと、お役所から社名を公開された当初はグダグダ言っていた企業側も、益々先が見えない不況の泥沼化に伴って、背に腹は変えられぬとばかり「内定取り消し」が「流行」し、最早社名公開を恥とも思わぬといった「モラル‐ハザード」も横行する始末である。
新卒者ですら、そんな扱いだから「転職高齢者」組などは採用取消し程度は朝飯前で、下流の紹介企業は仕事欲しさにこうした理不尽にも抗議の一つもできないという、情けないテイタラクである。貧しいことそれ自体は悪徳とはいえないかもしれないが、物質的な貧しさが心まで蝕み人心、ひいては社会全体までをも徐々に荒廃へと向かわせていくようだった。
このような状況にあって、時折思い出したように声が掛かる面接に「どうせ、行くだけ時間と金の無駄だろう・・・」と思いながらも、現実としては行かなければいつまで経っても決まらないのだから、僅かな可能性を求めて足を運び、結果的にさらに人心荒廃に拍車をかけるという悪循環である。
上京して5年・・・これまでの実績云々はまったく評価されない、初めて体験する世の中・・・しかも景気回復の兆しが見えていたり、見通しが立つものならある程度の期間は我慢して食い繋ぐことも出来るが、今回に関しては見通しなどはまったく霧の彼方であり、少なくとも2~3年は好転しそうもないと言われ、このような状況が何年続くのかすら、皆目見通しが立っていない状況である。
それだけに、今は方向性や自己実現云々といった高邁な事を言っていては、何時まで経っても仕事に就くことが出来ないから
「たとえ安い賃金でつまらない仕事でも、今は我慢をして食い繋ぎながら景気の回復を待つしかない時だ・・・」
などと、営業は異句同音に声を揃えていた。
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