2017/08/15

魚と漬物(日本の食文化とは何か/農林水産庁Web)

8 活け魚介のブランド化

豊後水道の愛媛県佐多岬半島と大分県関町を結ぶ流れの速い海域で一本釣りされたサバは「関もの」として古くから珍重されてきたが、昭和の終わりから「関の魚」としてのブランド化の試みが行われた。平成8年には「関さば」の商標登録が認可された。

 

尾にはブランドを表すシールが貼られている。JAS法による魚介類の名称ではないが、水産庁の「魚介類のブランド名のガイドライン」では、ブランド名を魚介類の商品名として任意に表示することは差し支えがないとしている。現在では全国でブランドの魚介類が登録され、ときさば、萩の瀬つきあじ、越前ガニ、明石タコを始め多くのブランドが生まれ、他の海域の魚介との差別化が図られている。

 

9 焼き魚・煮魚

日本の料理では、鮮度の高い魚介類を生で食するばかりでなく、鮮度がそれほど高くない魚介類でも焼く・煮るなどの加熱や調理加工によって最大限に利用する技術が蓄積されてきた。魚の種類や鮮度によって、様々な調理法の選択枝がある。また、生食よりも加熱した方が好まれる魚もあり、季節や地域によって多様な魚介料理がなされている。味噌や酒粕などに漬けて、鮮度低下の影響を弱める技術もある。

 

刺身ほどではないにしても、焼き魚でも魚の鮮度は重要である。焼き魚のうま味も鮮度に影響される。鮮度の良いうちに加熱した魚にはイノシン酸が多く残る。死後長時間経過した魚は、イノシン酸が減少している。そのような魚を加熱すると魚特有の匂いが強いばかりでなく、うま味も低下している。いわゆる血合い肉は鮮度低下による匂いの発生が強い。一方、食感は鮮度の影響をあまり受けない。

新鮮な魚を、天火や機械で軽く乾燥させて、うま味や脂を濃縮する加工法もある。干物と呼ばれ、魚の保存法の一つでもある。一般に干物は焼いて食される。

 

10 漬け物

日本の食を考えるとき、漬け物の存在を無視することはできない。ご飯と汁と漬け物は伝統的な日本の食の基本であり、これに副菜が加われば立派な和食となる。漬け物は、主に冬場の野菜の保存法として塩漬けや発酵が利用されてきたものであり、日本の各地方には独自の漬け物文化がある。

 

小川敏夫は「漬け物と日本人」(NHKブックス1996年)のなかで、「漬け物の味覚的な意義は、生野菜の風味や栄養を余り損なわずに、食べにくいアクも抜け、しかも自己分解、発酵、調味などによって、なまのときよりもさらにおいしく食べられる ー これが漬け物である。」としている。

 

野菜をおいしく食べる方法として、発酵過程での微生物におよるアミノ酸や核酸成分の増加が、うま味の利いた味わいに寄与してきた。日本人のうま味に対する嗜好の高さが生んだ発酵食品の代表である。

 

大正9年、大分県衛生課が県下の師範学校および中学校寄宿舎を対象に栄養調査をした結果、総ての学校の生徒が食事には漬けもののたくあん、または菜漬けを必ず食べていたという(小川敏夫、NHKブックス1996年)。古くから漬け物は国民食であり、ご飯を食べるための塩味とうま味を与える貴重な味覚であった。

 

しかし、近年では、発酵過程で生じる特有の匂いに対する抵抗感を持つ人が増えた。また米の消費量の低下もあって、ご飯を食べるためのおかずの必要性という観念が薄れてきた。そのため、塩分が強く発酵が進んだ従来の漬け物よりも、発酵を用いないで旨味溶液に漬けただけの漬け物や、ごく短時間だけ漬けた浅漬けが生野菜や野菜サラダの一種として人気が高いという。

 

漬け物は野菜の保存法の一種であるが、低温流通の確立と、家庭での冷蔵保存法が行き渡った現代日本では保存法としての重要性は薄れ、むしろ野菜を食べる調理法として重要である。国土全体に低温流通が確立している日本では、漬け物の保存性にこだわらない「低塩度冷蔵法」による製造が増えている。これは、10%以下の低い塩分濃度で漬け込み、保存性を補うために5度以下の温度で長期間貯蔵して腐敗を避けるものである。

 

保存中の野菜からの脱水が少ないため原形を保ち、野菜の風味が保持される利点がある。さらに脱塩工程が必要でないため、風味の流出が防げる。このような食品保存の技術革新によって、漬け物の意義が大きく変化した。保存食品として高い塩分濃度と、長期間の発酵により郷土食の強い独自の風味を持っていた日本の漬け物は、発酵による匂いが弱く、塩分濃度が低く、新鮮な野菜の味わいとうま味の強い、保存性は高いとは言えない新しいジャンルの食品になってきている。

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