I 食生活と健康、寿命の関係
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日本人の平均寿命は世界一
国民の平均寿命は、国民の健康度を推しはかる重要な「めやす」のひとつである。日本人の平均寿命は、昭和初期には男女ともに50歳に達していなかったが、2008年の簡易生命表によると男性79.29歳、女性86.05歳と飛躍的に伸張した。図1に示した国々の間で比べると、女性は世界1位、男性は世界2位、男女平均で世界1位の長命であった。
異論もあるだろうが、日本人の「平均寿命が世界一長い」ことから、日本人は「世界一健康」であるということができる。なお、「健康とは完全な肉体的、精神的及び社会的に安寧な状態であり、単に疾病または病弱ではないということではない」;
平均寿命の推移
図1 主要先進国における平均寿命の推移―日本人男女の平均寿命は世界一だった
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1610.html
"Health
is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely
the absence of disease or infirmity. " という、WHOによる健康の定義がよく知られている。この定義を、1988年、"Health is a dynamic state of
complete physical, mental, spiritual and social well-being and not merely the
absence of disease or infirmity." に改正することが提案されたが、付け加えられたspiritual(日本語の霊、魂、気に相当)という言葉を巡って委員会が紛糾したあげく、採択されるに至らなかった。
「健康の定義を改正するといった大問題には、もっと時間をかけて議論すべきである」、との意見が大勢を占めたためだというが、その後、何らかの進展があったとは聞かない。健康とは、国の内外で一般に理解されるところでは、「日常生活を普通に営むことができる;
痛みがなく、厄介な病気にも罹っていない;病気になりにくい;運動能力が高くて速く走れ、高く跳べ、重いものも持ちあげることができる;よく成長して骨格も発達している;生活の質が高い;そして最後に、活動的な長命を楽しんでいる」、といった、心身ともに健全な状態のことである、と理解されている。この定義に魂、精神の健康を付け加えることに異論があったと聞くが、この異論も理解しがたい。
死因別死亡率の推移
図2 主要死因別死亡率の推移(1899~2007)
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/images/2080.gifより
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「がん」、「心疾患」、「脳血管疾患」が現代日本人の三大死因
現代日本人の主な死因は、「平成19年人口動態統計」(厚生労働省)によると(図2参照)、男性では
(1)悪性新生物(上皮細胞由来の狭義のがん、肉腫、白血病)20万2743人(34.2%)
(2)心疾患8万3,090人(14.0%)
(3)脳血管疾患(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血)6万0,992人(10.3%)
(4)肺炎5万8,575人(9.9%)
女性では
(1)
がん 13万3,725人(25.9%)
(2)
心疾患 9万2449人(17.9%)
(3)脳血管疾患(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血)6万6,049人(13.3%)
(4)肺炎5万1584人(9.9%)であった。
1980年より以前は、脳血管疾患による死亡率が第1位を占めていたが、その後は悪性新生物(がん)による死亡率が第1位にとってかわり、その死亡数も増加の一途をたどっている(図2)。なお、平成19年の糖尿病による年間死亡数は1万3999人(男性 7395 人、女性 6,604人)であった。糖尿病による死亡は加齢に伴って増加し、そのピーク年齢も90歳以上の高齢側に移行していることが認められている。
脳血管傷害(脳梗塞と脳出血、急に発症したものは脳卒中)は喫煙や乱れた食生活、ストレス、運動不足が原因となるもので、その予防にはこれらの原因の排除と、減塩、減脂肪、摂取エネルギーの調節、栄養摂取のバランス調節、食物繊維の摂取など、が推奨されている。特に脳卒中は肉、牛乳・乳製品などの動物性タンパク質の摂取が少なく、高塩分摂取による高血圧で、血清コレステロール値の低い人がよく発症する。
食塩摂取量は昭和54年から10g以下が適正摂取量もしくは目標摂取量として設定されたが、食塩のとり過ぎが高血圧、がん、脳卒中などの生活習慣病のリスクを高めることから、減塩が勧められた。「日本人の食事摂取基準」の2005年版から2010年版では、食塩の1日摂取目標量として、男性(12歳以上)は10gから9g未満に、女性(10歳以上)は8gから7.5g未満に低減されている。
癌による死亡率
図3 がんによる粗死亡率と年齢調整死亡率の推移(1960~2005)
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2080.htmlより
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年齢調整死亡率-がんによる死亡率は増えたか?
図2の中に示した悪性新生物による死亡率(人口10万人当たり)は、年を経るごとに急増しているように見える。しかしこれは、人口の高齢化による年齢分布の偏りの影響を受けた、見かけ上のことに過ぎない。図3は、1960年の死亡率を100として、年齢分布の偏りを補正した基準人口(1985年の国勢調査人口に基づいて補正した人口)当たりで計算しなおした年齢調整死亡率(平成17年都道府県別年齢調整死亡率)(ひし形のマーク)と、年齢未調整の粗死亡率(正方形のマーク)をくらべたものである。
年齢未調整粗死亡率は、男女ともに2005年まで一意的に増加しているのに対して、人口構成で調整した年齢調整死亡率は、男性では1995年がピークで、その後は減少し、女性では1960年以降減少する一方である。つまり、がんによる死亡率が、見かけ上、増えたように見えているのは、日本人の寿命が延びて高齢者人口が増えたせいなのである(黒木登志夫著「健康・老化・寿命」、p.157-159、2007、中公新書)。「年をとると皆、がんで死ぬ」のではない。なお、年齢調整法の詳細は、http://ncrp.ncc.go.jp/file/seibi/tebiki/tebiki_s_4_2.pdf、を参照されたい。
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