オルペウス教(Orphism、Orphicism)は、古代ギリシャ世界における密儀教。オルフェウス教とも。
冥界(ハーデース)を往還した伝説的な詩人オルペウスを開祖と見なしている。
また冬ごとに冥界に降り、春になると地上に戻るペルセポネー、同じく冥界を往還したディオニューソス、もしくはバッコスも崇拝された。
その歴史的起源は紀元前6世紀、または少なくとも紀元前5世紀にまで遡り得るかもしれない。
エレウシスの秘儀と同じく、
オルペウス教は来世における優位を約束した。
特色
一般的な古代ギリシャ宗教と比較して、オルペウス教の特徴とされる点は、以下の通りである。
・人間の霊魂は神性および不死性を有するにもかかわらず、輪廻転生(悲しみの輪)により肉体的生を繰り返す運命を負わされている、という教義。
・「悲しみの輪」からの最終的な解脱、そして神々との交感を目的として、秘儀的な通過儀礼(入信儀式)、および禁欲的道徳律を定めていた。
・生前に犯した特定の罪に対し、死後の罰則を警告した。
・教義が、神と人類の起源に関する神聖な書物に基づいている。
ギリシア人一般、あるいはギリシア神話は、死後の世界に対する興味をそれほど示していない。
この点でオルペウス教は特殊であり、そのため研究者の間には死後について言及をオルペウス教の影響に帰する傾向が存在した。
しかしオルペウスのものとされる書物や教義は、早くにはヘロドトス、エウリピデス、プラトンなどの言及による確認されるものの、教団として確とした言及がながされるのは比較的後代となる。
このような極端な懐疑論を取る研究者は少なく、また近年のデルヴェニ・パピルスや黄金版などの発見により、懐疑論はいくらか勢いが弱まったものの、いつの時代から、どの程度の影響力を持っていたのかについては、研究者間にコンセンサスは存在しない。
神話
オルペウスによるものとされる神話は、ヘシオドスの『神統記』に範をとる系譜的な神話詩によって語られていたようである。
この神話は、近東諸国の神話の影響を受けた可能性もある。
オルペウス教に特徴的な人間の本質の起源を語る物語は、以下の通り。
ゼウスとペルセポネーの息子であり、かつザグレウスの霊魂の顕身であるディオニューソスは、ティーターン族により殺害され、その身を茹でられた。
だが、ヘルメースがザグレウスの心臓を奪い返し、怒ったゼウスがティーターン族に稲妻を浴びせかけた。
その結果、ディオニューソスの体の灰とティーターンの体の灰が混じりあい、その灰から罪深き「人類」が生まれた。
そのため、ディオニーソス的要素から発する霊魂が神性を有するにもかかわらず、ティーターン的素質から発した肉体が霊魂を拘束することとなった。
すなわち人間の霊魂は「再生の輪廻(因果応報の車輪)」に縛られた人生へと繰り返し引き戻されるのである。
ディオニューソスの心臓は一時、ゼウスの脚に縫い込まれた。
その後、ゼウスは死を免れえない人間の女性であるセメレーの母胎に、生まれ変わったディオニューソスを宿させることとした。
終末論
近年発見された黄金版や骨製のタブレットに記された碑文から、ディオニューソスの死と蘇生にまつわるオルペウス神話と、来世における祝福への信仰との関連性が読み取られる。
オルビアで発見された骨製のタブレット(紀元前5世紀) には、以下のような短く謎めいた銘文が刻まれている。
「生、死、生、真実、ディオ(ニューソス)、オルペウス」
これら骨製のタブレットの用途は、まだ解明されていない。
トリオイ(テュリ、Thurii)、ヒッポニウム(現在のヴィボ・ヴァレンツィア)、テッサリアおよびクレタ島の墳墓から発見された黄金版(最古のものは紀元前4世紀)には、以下のような死者への教えが記されている。
冥界に降りた時、レテの水(忘却)ではなく、ムネーモシュネーの泉の水 (記憶)を飲むように気をつけなくてはならない。
そして、番人に次のように告げなくてはならない。
「私は大地と星空の息子です。喉が渇いたので、ムネーモシュネーの泉から何か飲むものを私にください。」
さらに、他の黄金版にはこう書かれている。
「さあ、今や貴方は死んだ。そして、三度祝福される今日、生誕した。ペルセポネーに告げよ。まさしくバックス自らが、あなたを救済したのだ、と。」
ピュタゴラス教団との関連
オルペウス教の教義および儀礼には、
ピュタゴラス教団のものとの類似点が見られる。
しかし、一方がもう一方にどれほどの影響を与えたかを断言するには、史料はいまだ少ない。
※Wikipedia引用
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