ベートーヴェンは散歩が好きで、よほど体調が悪くない限り雨の日でも欠かさなかった。散歩には必ず五線譜と筆記用具を携帯し、楽想が湧くとメモをした。時に手を振り回して拍子を取ったり、妙な旋律を唸りながら歩くような事も決して珍しくなかった。
ある時、散歩の途中で素晴らしい楽想が浮かび、そのインスピレーションを家に帰るまで忘れないため、素っ頓狂な大声を張り上げて歩くベートーヴェン。反対方向から、馬に乗った人がやって来た。その馬はベートーヴェンに近付くや、突如として踵を返し尻尾を巻くようにして元来た道を戻って行った。
こんなエピソードもあるくらいだから、その時のベートーヴェンの様子がどんなものであったか、想像するのも難しい。有名な交響曲第6番『田園』も、この日課になっていた散歩から楽想が浮かんだもので、第2楽章に出てくる「小川のせせらぎ」のテーマに沿って、現在では
「Beethovengang"(ベートーヴェンの道)」という歩道の名が付けられている。
さて、馬も驚くようなベートーヴェンの容姿とは、どんな感じだったか。肖像画を見る限りは渋くて立派な感じに見えるが、実際は以下のように伝わる。
基本的に服装に無頓着。若い頃の服装はエレガントだったが、歳を取ってからは一向に構わなくなった。弟子のチェルニーは、初めてベートーヴェンに会った時「ロビンソン・クルーソーのよう」という感想を抱いたし、作曲に夢中になって無帽で歩いていたため浮浪者と誤認逮捕され、ウィーン市長が謝罪するという珍事もあった。
部屋の中は乱雑さを極めていたが風呂と洗濯は好み、また生涯で少なくとも70回以上引越しを繰り返したことでも知られている。当時のウィーンでは、ベートーヴェンが変わり者であることを知らない者はいなかったが、にもかかわらず、どの作曲家よりも尊敬されていた。
ベートーヴェンは背は低く頭がでかく額は出っ張り、色は黒く鼻も低く、どうも美男とはいいがたい容姿の持ち主だった。師のハイドンからは「ムガール帝国皇帝(当時のインド皇帝の意味)」とからかわれたくらいで、ムガール帝国皇帝(?)を振ったある女性は「だってあの顔だもん・・」と言ったとか。現在残っている肖像画は、真実を伝えていないと言われる。
0 件のコメント:
コメントを投稿