3. 日本型食生活スタイルの特徴
日本型食生活は、世界でもその類を見ない特徴的なスタイルである。1996年にローマで開催された、第1回世界食料サミットのために作成された国際連合食糧農業機関(編)「FAO世界の食糧・農業データブック―世界食料サミットとその背景」(国際食料農業協会訳、国際食料農業協会、1998)、のなかでも特異な位置づけがされた。
FAOは、世界の151カ国を食生活パターンに基づいて、第1類コメ、第2類トウモロコシ、第3類コムギ、第4類牛乳・食肉・コムギ、第5類ミレット・ソルガム、第6類キャッサバ・ヤムイモ・タロイモ・プランテーン(料理用バナナ)の6階層に分類した。日本は、第1類のコメを特徴的な食料とする国ではなくて、第2類のトウモロコシを特徴的な食料とする国に分類された。その理由は、日本人の食事パターンが
ü 第4類の高所得国よりもエネルギー摂取量が少ない
ü 食肉の消費量が少ない
ü コメの消費量が第1類のコメ消費国よりも少ない
ことから、トウモロコシを常食としないにもかかわらず、コメ以外の植物性食料の消費状況を勘案して、例外的に第2類のトウモロコシ消費国に、無理矢理に分類したのであった。つまり、日本型食生活は、他の国・地域にはその例が見当たらない、きわめて特異的な食生活スタイルであることが、認識されたのであった。
4
なぜ日本食が栄養学的に優れているのか?
日本型食生活を支える食事、つまり日本食(和食)を中心とした伝統的な主食、主菜、副菜がそろった食事を摂ることによって、健康の維持増進に必要なエネルギーとバランスの取れた栄養成分が、ごく自然に確保することができる。ヒトの血圧は植物性タンパク質の摂取量と逆相関するので、植物性食品(つまり、植物性タンパク質と植物性油脂)の多い日本型食生活では高血圧になりにくい。このような日本食の健全性は、「日本人男女の平均寿命が世界一である」という事実が証明している、と理解されている。
日本食の三大栄養素:たんぱく質、脂肪、炭水化物の適正な摂取バランスとして、厚生省が「第六次改訂日本人の栄養所要量」(平成12―16年度使用)において、摂取する総エネルギー量に対するPFCバランス、つまり[タンパク質]:[脂肪]:[炭水化物] の摂取エネルギー比率が、10~20%:20~25%:50~70%の割合となるように摂取することを推奨した(ただし高齢者と乳幼児を除く)。食物繊維の摂取量も、望ましい栄養素として策定された(成人に対して10g /1,000 kcal)。
図4は主要国におけるPFC.の供給割合(≒消費割合)を比較したものである。2005年における日本の脂質(F)供給割合が理想的とされる割合20~25%を有意に超えていること、炭水化物(C)の供給割合が50%以下になっていることに国民の注意を喚起する必要がある。
主要国の栄養素別割合
図4 主要国の栄養素(タンパク質、脂質、炭水化物)別エネルギー供給割合の比較
http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h18_h/trend/1/t1_1_3_01.htmより
かつての離乳食は、成人用の米飯食を流用した自家製が主流を占めていた。近年に成長した市販離乳食市場は、洋風レシピの離乳食が席巻している。このように、米飯中心の離乳食が少なくなりつつある趨勢に対して、米飯食(重湯、お粥を含む)とだしの味を中心に据えた、味覚啓発型あるいは日本型とも称すべき離乳食が提唱されている(伏木亨:http://www.pal-system.co.jp/ikuji/rinyu/kangaeru/index.html)。
一方、「民以食為天―漢書」(民は食をもって天となす)とし、「民生主義の第一の問題は、飯を食う問題にほかならない」(孫文「三民主義」下、p.145、岩波文庫、1957)とする中国は、2003年、脂質供給量が危険域に達した(図4)。2004年10月13日号のForbes.com
(http://www.forbes.com/2004/10/13/cx_da_1013topnews.html) のトップニュースは“Fat in China”であった。2008年11月24日の中国新聞網(ネット)によると、中国衛生部副部長兼中華予防医学学会会長・王隴徳が記者会見の席上で、「中国都市部では、0~6歳児の8%、7~17歳の青少年の21%が肥満であり、このままに推移すると、大変なことになる」、「肥満になる原因のひとつは、糖分の多い飲み物を飲み過ぎるためだ」との警告を発している。(http://www.recordchina.co.jp/group/g26170.html)
5
不老長生にも役立つ日本的要素:酒と茶の効用
(1)
日本酒の効用
アルコール飲料は適量を超えなければ、健康的な飲料である。その主成分であるエチルアルコールには
(a)胃粘膜の知覚終端を刺戟する
(b)ガストリン分泌を促進する
(c)ヒスタミンを遊離する
などの作用によって、胃液の分泌を促進する働きがある。この場合、ペプシン分泌量には影響なく、胃酸の分泌高進によって胃液酸度が高まるのが特徴的である。そのため、少量のアルコールを飲用すると食欲が増進されることから、この働きを利用する目的で食前酒が飲用されている。
なお、日本酒には血圧の上昇を防ぎ、HDLコレステロール(通称:善玉コレステロール)を増加させる効果のある成分が含まれていることも知られている。しかしながら、日本酒を含むアルコール飲料は連用して飲みすぎると、そのアルコールが胃の消化性潰瘍を増悪し、肝に多くの病変をもたらすことが知られている。
1細胞のタンパク質合成の抑制、タンパク質の分泌抑制・肝内蓄積の高進
2肝内脂肪合成の促進、末梢組織からの脂肪放出の促進、脂肪肝の形成
3アルコールの直接作用による肝細胞傷害、脂肪肝に起因する肝細胞傷害
などを経て、肝の繊維化・肝硬変に至る(糸川嘉則、栗山欣弥、安本教傳
編、「アルコールと栄養-お酒とうまく付き合うために」、p. 58-90、光生館、1992)。
表1 煎茶水溶性成分の含量と期待されている効能・効果
物質名:乾物1 g中含有量:保健機能(効能・効果)
カテキン:(タンニン)類:110~170 mg:抗酸化、抗突然変異、抗がん、血中コレステロール上昇抑制、 血圧上昇抑制、血糖上昇抑制、血小板凝集抑制、抗菌 抗虫歯菌、抗ウイルス、腸内菌叢改善、抗アレルギー、消臭
カフェイン:16~35 mg:中枢神経興奮、眠気防止、強心、利尿、代謝促進
テアニン:6~20 mg:脳・神経機能調節、リラックス効果
フラボノール類:~6 mg:毛細血管抵抗性増強、抗酸化、抗癌、心疾患予防、
消臭
複合多糖類:~6 mg:血糖値上昇抑制
ビタミンC:3~5 mg:抗壊血病、抗酸化、抗がん、かぜ予防、白内障予防
免疫機能増強
γ-アミノ酪酸:(GABA):1 mg
嫌気処理:1~2 mg:血圧上昇抑制効果、脳、神経機能調節
サポニン:2 mg:抗喘息、抗菌、血圧上昇抑制
ビタミンB2:12 mg%:口角炎、皮膚炎防止、脂質過酸化抑制
食物繊維:30~70 mg:抗がん(大腸がん)、血糖値上昇抑制
ミネラル類:10~15 mg%:亜鉛:味覚異常防止、免疫能低下抑制、皮膚炎防止
フッ素―虫歯予防
マンガン、銅、亜鉛、セレンー抗酸化
カリウムーイオン平衡
村松敬一郎他編「茶の機能」、 p.13, 学会出版センター、2002.より
(2)
日本茶の効用
日本茶を淹れたときに、茶葉から浸出される画分には、食物繊維(茶葉に含まれる量の30~40%)、タンパク質(茶葉に含まれる量の20~30%)、15~30 mg のβ-カロテン、クロロフィル、その他、表1にリストアップした保健機能のある成分が含まれていることが確かめられている。なお、茶の古葉には多量のアルミニウムやフッ素(いずれも1,000 ppm以上 )が蓄積していることが知られている。
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