これまでずっと愛知県に住んで来たワタクシにとって、旅行といえば目が向くのはやはり関西である。
元々、寺社が好きな事もあるが、春の花見や秋の紅葉狩りは京都旅行が恒例と化していたし、また夏や冬などシーズンオフには奈良といった具合で専ら京都・奈良、或いは滋賀など関西方面ばかりに通っていた。どうも関東方面には食指が動かない上に、関西に比べ距離感も感じられただけに、まったく行こうという気持ちさえ起こらなかった。
そんなワタクシだけに、東京で仕事をする事が決まった時に、真っ先に考えた事といえば
(京都が遠くなる・・・)
という事である。
京都、奈良などから遠ざかる事にしばらくは無念の臍を噛んだものだったが、既に引っ越してしまった以上、仕方がない。
「郷に入っては郷に従え」というのとは少し違うが、何の因果かは別にして現実に関東にいるからには、少しは足元に目を向けようと思い直した。関東(というよりは東日本)にも勿論、興味の対象はあって、愛知にいる時から是非行ってみたいと思っていたのは箱根、鎌倉、伊豆、日光などである。そのうち日光は少し距離感があるが、箱根や鎌倉、あるいは伊豆なら近い上に便利が良い。特に温泉好きなワタクシにとって、京都や奈良では経験していない温泉は大きな魅力である。
そんなワケで
(今年の秋は、地元の箱根、伊豆で・・・)
と思い立った。ちょうど紅葉の一番良いタイミングに大きなプロジェクトが被ってしまっい、ひと段落着いたところで平日二日の休暇を取って、旅に出る事にした。
前にも述べたように、寺社好きなワタクシだから鎌倉にはかねてから興味があった。 数年前、N社のプロジェクトで赤十字病院の全クライアントPCに医療ソフトを導入した事があり、ワタクシも参画した。各現場には、全国のN社から派遣されて来た社員が日替わりで監督に付いていたが、或る日は神奈川Nの社員だった事もあり、手持ち無沙汰で暇な時間帯を埋めようと、その無愛想な男と雑談を交わした事があった。
「Aさんは、神奈川のどちらにお住まいですか?」
「鎌倉です」
「鎌倉かー、いいねー。ワタクシも鎌倉には、以前から是非行ってみたいと思っていてね」
「鎌倉なんて行ってもしょうがないですよ・・・たいした見所はないし」
「そんな事ないでしょう。有名なところだけでも、沢山あるじゃん?」
「有名といったって・・・高徳院の大仏と鶴岡八幡宮、銭洗い弁財天を見たら、それで終わり。その三つくらいでしょ」
と、何が気に入らないのか、ブスッとした表情で吐き捨てるように言っていたものだったが、鎌倉に良いイメージを持っていたワタクシは
(要するに、アンタが低俗なだけだろーが・・・)
などと腹の中で毒づいていた。
が、それから数年後、思わぬ形で鎌倉を訪れる事になった。名古屋での活動に見切りをつけ、上京を決心したワタクシの元に、富士通系列の某社から面接依頼が舞い込んで来たのである。
書類審査を通り、東京本社での最終面接に来られたし、という事で大森までの往復の交通費は全額支給されるという事だった。
(往復約2万を超える交通費を、向こうで負担してくれるのなら結構じゃないか。浮いた分で一泊して、念願の鎌倉見物と行くか・・・)
と面接などはそっちのけで(?)、心は鎌倉に飛んでいた。
面接を終えた日は蒲田に一泊し、翌日に早速鎌倉へと向かうと駅前のレンタサイクルを借り、お定まりの観光コース(高徳院大仏、長谷寺、銭洗い弁財天)を周回した。
その後、上京してから1年以上が経過したが、思えば鎌倉にまだ一度も足を運んだ事がなかったのは
(近いからいつでも行けるし、どうせなら条件の良い時に行かなくては)
という思いがあったからで、仕事の関係で三度ほどは湘南新宿ラインを利用して近くまで行きはしたものの、鎌倉は訪れずじまいだった。
そして、ようやくこの時期を迎えて鎌倉を思い出し、箱根・伊豆のような温泉はないものの紅葉の名所としてコースに組み込む事にしたのだった。
そんなわけだから1年以上も東京に住んでいながら、まだ鎌倉にはまったく土地勘というものがなく、紅葉といってもどこへ行けばいいのかがわからない。ネットで検索している時間もあまりないままに、出たとこ勝負でとにもかくにも鎌倉へと向かう。
前回と同じように駅前でレンタサイクルを借りると、向かったのは長谷寺である。
<藤原房前が徳道上人を鎌倉に招いて、736年に創建した。本尊の十一面観世音菩薩は、日本有数の木像彫刻像で「長谷観音」として親しまれている。境内の見晴台からは由比ヶ浜が見え、素晴らしい景色が楽しめる。また幻想的な雰囲気の弁天窟や、高浜虚子の句碑など見所も多い>
<木造仏では、日本最大ともいわれる長谷観音で知られる。大和の長谷寺の開山でもある、徳道上人が開いたとされる浄土宗の寺。天平8年(736)に創建されたと伝えられる。養老4年(720)、徳道が山の中で霊木を発見し時の名工、稽文会と稽首勲に二体の十一面観音を造らせた。本尊長谷観音立像は、そのうちの一体といわれている。
坂東三十三観音の第4番札所として、多くの参拝者が集まる>
鎌倉に数ある寺社の中でも有数の寺院である。
伽藍など寺院の規模は言うに及ばず、京都との比較というのは無理があるが、殊に「日本庭園の魅力」では特に京都に見劣りする鎌倉にあって、この長谷寺は鎌倉では数少ない名庭で知られている。予想通り紅葉は少し遅かったが、それでも境内の階段を上がったところに、山々をバックに赤と黄のコントラストが映えて美しかった。
<当山は観音山の裾野に広がる下境内と、その中腹に切り開かれた上境内の二つに境内地が分かれており、入山口でもある下境内は妙智池と放生池の2つの池が配され、その周囲を散策できる回遊式庭園となっております。また、その周辺にとどまらず、境内全域は四季折々の花木に彩られ、通年花の絶えることのないその様相は「鎌倉の極楽西方浄土」と呼ぶに相応しい風情を呈しております>(公式Webページより)
<上の境内には、本尊である十一面観音菩薩像(長谷観音)が安置される観音堂を始め主要な諸堂宇が建ち並ぶほか、鎌倉の海と街並みが一望できる「見晴台」と傾斜地を利用した「眺望散策路」があり、鎌倉でも有数の景勝地となっております。また眺望散策路の周辺には、20種類を越えるアジサイが群生しており、梅雨の季節には眺望はもとより「アジサイの径(こみち)」として、散策も楽しんでいただけます>
京都ばかりを見慣れて来たワタクシの目からすれば、庭園は規模が小さく、それほど唸るほどのものではないと感じてしまうのであるが
(ここは鎌倉だから、京都と比較するのは意味がない・・・)
などと己を納得させながら、境内を上へ上へと登り見晴台に辿り着くと、一望の下に由比ガ浜の雄大な波が拡がっていた。
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