若い頃から、熱心なワグネリアン(ワーグナー信奉者)だったドヴォルザークは、皮肉にもワーグナーとは犬猿の仲で楽壇を二分する形で対立していたブラームスによって才能を見出され、世に送り出された。こうした経緯から、恩人であるブラームスに義理立てをして、長きに渡ってワグネリアンとしての正体を隠していた。
ドヴォルザークが晩年を迎えたころ、ブラームスが天に召された。
「煩いブラームスのオヤジが居なくなって、これで自由の身になれたわい」
とばかり、これまで抑えに抑えつけてきた鬱憤を一気に吐き出した(?)
それが、ドヴォルザーク最後の交響曲『新世界より』である。最後の最後で本領を発揮したこの曲こそ、今やベートーヴェンの第5番(運命)、シューベルトの『未完成』などと並んで音楽史に残る超有名曲となった。個人的には『未完成』よりは出来がよいし、あの『運命』と比べても遜色のない素晴らしい曲だと思っている。
元来がワグネリアンであるところへ持って来て、さらに「メロディの王様」と称されるくらいの人が本気になったら、こんなにもド派手で煌びやかな曲が創れますよ、というサンプルのような曲である。
ü 大好きな曲だ・・・てなことはどーでもいいが、まず冒頭の序奏でホルンとフルートが活躍を印象付ける。これは主題でもなんでもない単なる導入部の扱いだが、早くも惹き込まれてしまうようなカッコ良さである。
ü ホルンとオーボエが第1主題を歌い上げ、フルートがそれに応じるところが絶妙だ。続いて弦楽合奏に移行し、途中からトランペットも加わる。この第1主題は、第1楽章に止まらず全曲を通じて現れる。全曲の統一感を出すための非常に重要な役割を担っている。
ü 第2主題がフルートとオーボエによって提示される黒人霊歌を思わせる旋律。第1主題と同じく、最初は木管のソロから始まり弦楽合奏に移行する。これが、また実に美しい旋律。
ü 1分刻みで、第3主題が早くも登場してくる。「メロディの王様」が「美味しいケーキを幾つも並べたような」めまぐるしい展開で、最初から力技で圧倒してくるような迫力。
ü ここまでの3つの主題の提示が終わり、ここから展開部に移る。ここからが、作曲家の腕の見せ所だ。
ü まず、第3主題が登場。第3主題と第1主題が絡み合い、そのまま第1主題が様々な楽器で奏でられた後に変奏で引き取る形となるが、それだけではない。 よく聴いてみると、第3主題のテンポを2倍速にしたものが、第3主題自身の伴奏になっているという念の入りよう。
ü 久々の第2主題が、フルートで再登場。この展開部が、なんとも美しい。
ü 第3主題がフルートで再登場の後、金管、さらにフルオーケストラとなって変形した第1主題と絡み合いながら、ド派手な終結部へとなだれ込む。まことにドヴォルザークらしい展開だ。
Classis音楽は、漫然と聴いていると繰り返しばかりで退屈に聴こえるかもしれないが、実はこんなにも手が込んでいるという一例である。とにかくカッコ良いの一語に尽きるし、この完成度の高さは神の領域と言うしかない。僅か10分という時間の中に、まさに「美味しいケーキを幾つも並べたような」(某評論家)楽しい要素がギッシリと詰まっていながら息苦しさはなく、あくまで開放的なイメージなのだ。
全4楽章の中で圧倒的な人気の最終楽章や第2楽章よりも、この第1楽章が最も好きだ。
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