ドヴォルザークというと、交響曲第9番『新世界より』とチェロ協奏曲ばかりが有名だが、実は室内楽の分野でも多くの優れた作品を残している。とりわけ弦楽四重奏曲の分野では、この第12番『アメリカ』以降にも優れた二つの作品を残した。
メロディの美しさも『アメリカ』に比べて劣るものではないが、なぜかポピュラリティの面で大きな差が付いた。考えてみればまったく不思議な話であるものの、やはり弦楽四重奏というジャンルの特質が原因しているのだろう。
弦楽四重奏というのは、基本的に「論理」の音楽である。じっくりと腰を据えて書けば、いかにメローディーメーカーたるドヴォルザークであっても、それは論理の音楽になってしまう。しかし、僅か3日でスケッチを完成させたこの作品では、論理を押しのけてメローディーメーカーたる彼の美質が、最もいい形で発揮されたのだろう。
実際、この作品には、どこを探しても気難しい表情を見つけることができない。その事が、このジャンルの音楽に「賢者の対話」(ゲーテ)を求める人々には、どこか物足りなさを感じさせることも、また否定できない。とは言うものの、本来取っつき難いこのジャンルに、こうした楽しめる音楽が存在することは貴重なのである。
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