2006/10/06

ストラヴィンスキー バレエ音楽『春の祭典』(3)

 


オープニングから、いきなりファゴットのわけのわからない旋律が飛び出したかと戸惑う間もなく、猛烈な不協和音の雨霰や極端な変拍子の多用など、それまでの管弦楽の常識を遥かに逸脱した、わけのわからない構成と大編成のオーケストラの織り成す、鬼才の一大芸術実験とでも言うべきか。不協和音や難解なパッセージの連続、そしてあまりにも唐突な幕切れに加え、天才ダンサー・ニジンスキーによる理解不能な原始的な刺激に満ちた振り付けも相俟って、当時としては何から何までトンデモナイような、常識外れな音楽であった事は確かなようだ。

 

現代音楽を聴き慣れた我々のような、すれっからし世代のファンでさえ、最初に聴いた時は

 

(なんじゃ、こりゃ???)

 

とドギモを抜かれるくらいだから、長い間に渡って音の流れの美しいロマン派音楽などに慣れ親しんで来た、当時の上品な音楽を好んだおフランスの聴衆がビックリ仰天した事は言うまでもなかった。

 

チャイコフスキー以来の大型バレエ音楽を引っ提げ、20代後半にしてキラ星の如くに颯爽と登場してからは、共産主義ロシアの圧制から逃れるためにフランススイスと亡命を繰り返し、最後にアメリカに渡るまでの間にも転々と作風を変えて来た事から「1001の顔を持つ男」、「カメレオン」などと揶揄されたのがストラヴィンスキーである。最後に落ち着いたアメリカでは、商業主義の波に乗り要請に従ってジャズや映画音楽にも手を染めるなど「世渡り上手」な手腕を遺憾なく発揮。

 

またシェーンベルクの「12音技法」も巧みに採り入れるなど、実力に裏打ちされたとはいうものの、これらの新しい分野をいとも簡単そうに次々と開拓して行ったところからしても「カメレオン」などと安易には片付けられないくらいに稀に見るような才能に裏打ちされた、驚くべき器用さを持ち合わせた人物だった事には疑いがない。

0 件のコメント:

コメントを投稿