2004/09/16

ブルックナー 交響曲第4番『ロマンティック』(第3楽章)



 ブルックナーの音楽の「特異性」とは何かと言えば、ひとことで言えば「わかり難さ」という事になるだろうか。「わかり難い」と言っても決して20世紀音楽のような、あの一見してデタラメな音符の羅列のような、不協和音の連続といった前衛的なわかり難さではなく、それに比べればブルックナーのは音楽としての体裁からすれば遥かにまともであり、奇を衒ったところはまったくないと言える。それどころか、逆にこれほどクソ真面目で遊びの要素に欠ける面白みのない音楽も珍しいくらいで、それこそが実はブルックナーの「わかり難さ」の原因なのではないか。

ブルックナーの音楽には「音を楽しめる」ような要素は殆どないと言っても良く、その辺りも古典派からロマン派に至るお約束めいた形式に慣れた耳には、何とも無機的かつ愛想のない音楽にしか聴こえなかったのも、無理からぬところかもしれない。その上、どれもが「交響曲の化け物」と酷評された通り、当時としては非常識なまでにやたらと長い曲ばかりで、全10曲の交響曲の中で最も短いものでも1時間近くの演奏時間を要し、長いものは1時間半以上と長大であるばかりではなく、これまた常識外れのスケールの大きさは晩年になればなるほど顕著となっていったがために、益々「わけがわからない」と評される悪循環となってしまった。

しかしながら素朴な性格のブルックナーは、そうした世間の評価に迎合する事なく、あくまで己の芸術に忠実であり続けた人である。そうした姿勢は、敬虔なクリスチャンとして長年に渡って教会のオルガン奏者を地道に勤め上げてきたいう歩みが、その音楽性の下地になっていた事は間違いないところである。

この第3楽章は、俗に「狩のスケルツォ」としてよく知られ、白馬の騎士が駆けていくようなキビキビとした楽章である。

原始霧」或いは「夜明け」をイメージした、神秘的な雰囲気を醸し出すオープニングの「ブルックナー開始」(第1楽章冒頭が、弦楽器のトレモロで始まる手法で、霧のような効果を持つ。そこからジワジワと、主題を浮かび上がらせるテクニック)
※トレモロ(tremolo)・・・同音または異なる二音を、急速に反復させる奏法。主に弦楽器で行う。震音。

ブルックナーの交響曲の大半は、2小節の序奏の後に旋律が出てくるパターンで始まります。『ロマンティック』は、4つの楽章いずれもがこのパターンです。
1楽章では、弦の2小節の序奏(刻み)の後にホルンが主題を吹奏します。ブルックナーの音楽は、深いアルプスの森の霧の彼方からやってくるのです。それが段々と近づき、遂に巨大な光の柱が目の前に聳え立つ。ブルックナーの交響曲9曲(正確には、遺作を含めて11作)全てが、同じように開始されます。ベートーヴェンが遺した9曲の交響曲が、全て異なる始まり方をするのと対照的です》

《第1楽章冒頭の弦の刻みに始まる、独特の主題提示は「ブルックナー開始」と呼ばれ、弦の刻みによりコードが進行する形態を持つため「原子霧」という言葉で表現される事もあります。弦楽器で、このような刻み音でコードが進行する形態は、まず見られません。いつまでも、この和音進行が続いて欲しいと思わせるような、美しい旋律です》

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