7月。第二期定期考査が行われ、上位20人の名が発表された。
入学時の学力考査と第一期定期考査では、タカミネ、カトーに次ぐ3位につけていたクラスメートの天海摩央が、遂にライバル2人を破って初のトップに輝いた。
2位には、タカミネ、カトーを凌いでコンド―が食い込み、学力考査と第一期でそれぞれトップと2位を独占していたタカミネ、カトーのコンビは3、4位に後退。続いて、茜と並ぶ学内きっての美形の淳子が「才色兼備」をいかんなく発揮し堂々の5位、さらに前回はにゃべの後塵を拝したヒムロが6位。それにしても学内きっての美形の淳子が、あの涼しげな優しい顔で「天才」と思っていたヒムロよりも上に位置しているとは、実に驚くばかりである。
7位には、建設会社社長令嬢という「お嬢」が入り、前回「御三家」に続く4位に着けていた麻衣子は8位に後退。9、10位にはE学区のシガ、前回と同じ10位のサトジュンという地味なコンビが並んだ。
「まったく勉強せずに」学力考査7位、第一期定期考査5位と好成績を叩き出してきたにゃべは、遂に16位まで後退。にゃべの上には、かつての同級生だった真紀が13位、この年のクラスメートでにゃべが目を付けていたナンバーワン美少女の茜が14位。さらには19位に『B中』同窓の梓が入っていたが、ムラカミや香の名は20位までにも出ていなかった。
「まさかの16位」
(そんな順位で、よー生きとるわ)
などと、かつて軽蔑していたような順位まで落ちぶれてしまった。奇しくも前回トップ10入りした顔ぶれの中では、5位に並んだにゃべとヒルカワだけが10位以下に転落となった中、中学で生徒会長を務め圧倒的な学力を誇ったというヒルカワは、なんと20位以内からも名前が消えていた。
前回、いきなりの5位で甘く考えてしまったものの、やはり思った以上に上位のレベルは高いらしい。なにより『B中』ではトップが指定席だったあのヒムロが、前回より上がったとはいえまだ「6位」だから、中学時代にずっと思っていたような「天才」などでは、まったくなかったことがハッキリした。ましてや勉強していないとはいえ、自分など所詮「田舎の神童」に過ぎなかったと痛感させられることに。
第二期定期考査でトップとなった天海摩央の家は、学校区の中で最も遠かった。本人いわく、通学時間は1時間半くらいだという事だったから、かなり大変だ。
今の制度なら、より近くてレベルも高い名古屋の進学校へ通へただろうが、当時の制度ではF市の中学生は、名古屋市の公立高校受験が許されなかった。ところが、そんな縦割り行政の弊害をもプラスに利用してしまうのが、彼女の凄いところだ。
遠距離通学者たちがブーブーと不満を垂れている間に、いつの間にやら英単語などをマスターしてしまったのだった。
「電車のゴトゴトいう音と、揺れのリズムで憶え易いんだよ」
と、往復の3時間をムダには費やしていなかった。そんな摩央だったが、同じ中学出身のマツモトの話によると
「アイツは小学生のころは、手の付けられんようなおてんばでな。男子を虐めて遊んでいたんだぞ。オレも散々、いたぶられたし・・・」
という事だった。
摩央の家系は、父親が旭丘高校⇒東大医学部卒で、母親が岡崎高校⇒東大医学部の出で、両親ともに国立大学付属病院の医師という超エリート家庭である。おまけに摩央の3年上の兄は、東海高校から東大医学部に現役で合格していたという、恐るべき秀才揃いの医学家系だった。
さらに2つ年下の弟も名門・東海中学でトップクラスの成績、という典型的なスーパー秀才家系であったが、そんな中にあっておてんばモノだった真ん中の一人娘、摩央だけは
「私一人だけ、どうしよーもなく出来が悪くてね。とっくに、親から見放されていたからねー。まあ女だし、兄弟のように期待もされなかったから・・・その反動でぐれちゃったのさ」
という話はとても信じ難かったが、先のマツモトの証言にもみられるように、中学途中まではかなり荒れていたらしい。その後、何が切っ掛けとなって「開眼」したのかは定かではないが、今や男子のタカミネ、カトーと並ぶ「御三家」の一角を占めるのは、誰もが認めるところだ。
典型的な「天才型」のタカミネ、カトーとは違い、人並み外れた努力で伸し上がってきたのが摩央である。外見的にも、見るからに賢そうなカリスマ的な雰囲気を持つ天才2人に比して、どこからみても平々凡々であまりあか抜けない「庶民派」とはいえ、やはり努力だけでは語れない生まれ持った能力の高さは驚くべしである。
そんな彼女は、皆から「マザー!」という愛称で親しまれていたが、これは渾名付け名人といわれたにゃべが命名したものだ。これまで、数々の渾名を生み出して来た名人にゃべにとっても、これは本人のパーソナリティにピッタリ嵌った最もお気に入りのものだった。
もっとも、ご本尊の方からは
「ヘンな渾名付けやがって・・・」
と、睨まれたりしたが。
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