2006/09/20

決意(二度目の契約更新)part5

 元々、H氏とは当初からあまり良い関係ではなかったが、このT氏とは最初からよい関係を築いていたのだったが、いつからかその蜜月関係が終わりを告げた。

T氏からすれば誰よりも心安く、またN社マネージャーという立場から見ても、対外的には同じN社の所属となっているワタクシは、立場的には何かと使い易かった・・・というところもあったのかもしれない。恐らくは客観的に見て、両者の関係が悪化したのはワタクシの方に、より多くの原因があったのだろう。

技術者肌であるワタクシは、どうもどこへ行っても上の者には確実に嫌われるタイプのようだ。それはワタクシが技術的な妥協を決してしないからで、論戦になった際など間違った意見を吐く相手が許せないために、容赦なく攻め立てるからであろう。相手にしてみれば、自信たっぷりに放った主張が理論的に否定されるのは、恥を掻かされたという思いなのかもしれないが、こちらとしてはあくまで技術的な話だと割り切った事であるし、何も人格を攻撃しているわけでは一切ないのにも係わらずである。

元を辿れば、現場のシステムをより良くしようとの考えが根底にあるのだから、そんな事でイチイチ子供じみた逆恨みされては、堪ったものではない。ところがそんな事が度重なるにつれて、これまでのどの現場のトップよりは遥かに度量があると思っていたT氏も、次第に明らかにワタクシを避けるようになった。

それでも意見を求められた時は、意趣返しのつもりで時にはわざと過激な意見を述べ立てると、必死になって頭ごなしに却下してくるのだ。それならば最初からワタクシに訊かずに、絶対に反対意見を出さないその他大勢の無能な輩に訊けばよいではないか、と思えてしまう。

こうした事が積み重なって、それまでは次第にR氏一人に寄り掛かるか、リーダーR氏とワタクシに続く三番手とはいえ、知識レベルは数段劣る若いC君に頼り始めたのは、まったくのお笑い種であった。

 当初は、明らかに検討がおかしな方向に向かっているような場合は、割り込んで正論を打つと、T氏が却下した後からでもH氏が

「にゃべさんの意見は、決定事項とまったく逆みたいですが大丈夫でしょうか?」

と決定事項を蒸し返し、引っくり返したりしていた事もあったが、その後ワタクシが問題提起したテーマにもかかわらず(結論だけ横取りする形で)、途中で検討から外された事があってからは、冷淡な傍観者を決め込むハラを固めた。

そうして大してやる事がなくなったワタクシは、所属会社に対して契約の終了を宣言した。実のところ、理解力の低い相手の説得に疲れたというのが真相である。

通常、この現場では守秘義務を重んずる事から、要員の交代は直前まで誰にも知らされない事になっているが、ワタクシの場合は事情が違う。元々、所属会社の取引先であるNX社はN社の系列だから、リーダーのN氏は勿論、N社からの出向の身である責任者のT氏や、本部から出向のもう一人の責任者H氏の三人には、当日にも連絡が行った模様であった。

その日、H氏とN氏は役所で重要なミーティングがあったため現場には来ていなかったが、早速電話でT氏とやり取りをしている様子も窺えたし、技術リーダーのR氏の携帯にも連絡が入り

「急遽、会社に呼ばれたので・・・」

と、定時で慌しく帰って行った。

そんな様子を尻目に、これといってする事がないが忘年会は欠席を決め込んだワタクシは嫌がらせを思いついて、転職サイトに匿名公開する経歴書を密かに作成しており、気付いたら遅い時間になっていて、部屋にはワタクシとT氏しかいなかった。

この頃には既に、話しかけようとするだけでも露骨な逃げ腰になっていたT氏が、珍しく自ら話し掛けて来た。


「もう今年も僅かですが、来年も頑張ってください」

「ありゃ?
Tさん、忘年会には出ないんですか?」

「今から行くところですよ・・・」

「まあ、ここでは私の出番はないからね・・・」

と、適当に相槌を打つと

<今のところは比較的出番が少ないが、来年には機器の一斉リプレース等が控えており、通信ネットワークやセキュリティに強いにゃべさんに、是非とも頑張って貰いたい>

とか何とか言っていたが、誰が今更こんな世迷言なんぞにマトモに取り合おうものか。

 挙句は

「今時フリーでやろうとしたら、よっぽどの高いスキルがないと仕事もないし、金になりませんよ」

と、脅しとも取れそうなセリフを吐いて来た。

「じゃあ仕事がないかどうか、試して来ましょうか?」

と切り返した事は、言うまでもない。

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