2017/06/23

ヴェーダの宗教



アーリア人の宗教ーーヴェーダの神話と祭式思想
 現存するインド最古の文献は、ヴェーダである。

ヴェーダ」という語は、二種類の意味で用いられる。

広義の「ヴェーダ」は、西紀前1500年頃、インドへ西方から侵入したとされるアーリア人の残した文献群、すなわちヴェーダ・サンヒター(本集)とその三種の付属文献、ブラーフマナ、アーラニヤカ、ウパニシャッドの総称として用いられる。

一方、狭義の「ヴェーダ」は、このうちのサンヒターを指して用いられる。
 
広義のヴェーダの成立期間は長く、最古のヴェーダ・サンヒターからウパニシャッドまでの間には「新ウパニシャッド」と呼ばれるものを除いても、1000年以上の開きがある。
 
 ヴェーダは、口伝によって現代まで伝えられたが、その正確さには驚くべきものがある。

もちろん、すべてが伝承されたわけではない。

文字で記されるようになったのは、14世紀後半で、南インドにおいてとされる。

●サンヒターと四ヴェーダ
 ヴェーダ・サンヒターには四種類あり、四ヴェーダといわれる。

『リグ・ヴェーダ』『サーマ・ヴェーダ』『ヤジュル・ヴェーダ』『アタルヴァ・ヴェーダ』である。

これらは、祭式において唱え歌われる賛歌(マントラ)、呪句の集成で祭官の職分に応じて作成され、伝承された。

内容は、古代インド・アーリア人の祭式と密接に結びついている。

彼らは戦勝、子孫繁栄、降雨、豊作、長寿など、様々な願望を成就するために祭式を行った。

ヴェーダは、それらの祭式の実行と解釈のために作られた、伝承の集成といった性格をもつ。

●三ヴェーダ
 四ヴェーダのうち、最後の『アタルヴァ・ヴェーダ』は主として呪術に用いられる呪句を集めたもので、ヴェーダ祭式に関わる前三者とは性格が異なる。

またヴェーダとしての権威を認められたのも遅く、一段低いものとみなされる。

そのため、これを除いた三者をあわせて「三ヴェーダ」と呼ぶことがしばしばある。

●ブラーフマナ
 ブラーフマナは祭式の次第・順序などの規定と、マントラの起源・語義などを神話と結びつけて神学的に説明することを主な内容とする散文の文献である。 

その神話や伝説は、後代の文学に影響を及ぼした。

●アーラニヤカ
 アーラニヤカは、「森林書」と訳されることがあるが、祭式の神秘的な意義を説き明かすもので、人里離れた所において説かれるべきものとされるので、この名がある。

ブラーフマナとウパニシャッドの中間的な性格を持ち、単なる祭式の説明に止まらず一部に哲学的な思想も含む。

●ウパニシャッド
 ウパニシャッドは「奥義書」と訳されることがある。

ヴェーダの秘教的な思想を集めたもので、その神秘思想は多くの人の注目を集めてきた。

これはまた、ヴェーダの最後の部分で、「ヴェーダーンタ(ヴェーダの最後)」とも呼ばれ、転じて「ヴェーダの極致」と解釈される。

●『リグ・ヴェーダ本集』
 ヴェーダのうち、最も古く重要なものが『リグ・ヴェーダ本集』である。

これはヴェーダの祭式において、神々を祭場に招き称賛する賛歌の集成であるが、神々の姿、あり方を映し出した神話を伝え、また僅かではあるが哲学的な内容も含んでいる。
 
 その神話はギリシア神話と同じく、多くの神々が現れる。

しかしゼウスのような最上神は存在せず、交互に最上の賛辞を受ける。

ゼウスと起源を同じくする天神ディアウス(Dyaus)が現われるが、神々の主というわけではなく、多くの神々の中の一人でしかない。
 
 それら神々は、超越的な存在というよりは人間的で、多くは自然現象に起源を持つ。

たとえば火(アグニ)や風(ヴァーユ)は、そのまま神として崇敬の対象とされた。

とはいえ、火や風のうちにある畏敬させるなにものかが崇拝されたのであって、火や風そのものが崇拝されたのではないことには注意を要する。

その他、太陽神スーリヤ、暁の女神ウシャス、雨の神パルジャニヤ、暴風神ルドラ、河の女神サラスヴァティー、夜の女神ラートリーなど自然現象が神格化された神々が多く現れる。
 
 しかし、ヴェーダの神話は単純に自然崇拝とは言い切れない面も持っている。

とりわけ活躍する神に、その傾向が見られる。

リグ・ヴェーダの中で、鮮明に擬人化され、最も活躍する神インドラは、雷の性格を強くもつものの、敵と戦い悪魔を退治する英雄神としての姿は、自然現象との繋がりが希薄である。
 
 また、宇宙の理法(リタ、天則)の守護者であり、かつ懲罰者であるヴァルナ(Varua)も自然現象との関係が希薄で、その起源は不明になっている。

古代ペルシアのゾロアスター教のアフラ・マヅダ(Ahura Mazdah)と元来は同一の神とされるが、ギリシア神話のウーラノス(Uranos)と同じ起源をもち蒼空の神格化されたものであるとする説、月の神と見る説、水の神と見る説など解釈は分かれている。

このヴァルナも、インドラと並んでヴェーダの神話において重要な役割を果たしている。
 
 神々は、人間の願望を実現する力を備えた存在と見なされた。

祭式は、そのような神々に供物を捧げ、賛歌を唱え、神々の好意を得ることによって、その力を発揮してもらい、願望が成就されることを願って行われた。

祭火は供物を天上の神々に届ける使者として神聖視され、火神アグニとして尊ばれた。

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