2005/02/02

御三家(ドタバタ生徒会長選挙part1)

生徒会長選挙が始まった。予想では大本命が御曹司タカミネ、対抗がマザー、大穴がカトーという顔ぶれで、言うまでもなく「御三家」である。

 

人気と言う点では、やはり御曹司タカミネが一頭地を抜いていた。なにしろ学年随一のオトコマエでだけでも充分にモテるところに加え、代々医師家系の御曹司であり、また東大合格間違いナシと言われる秀才でもある。さらにさらに180cmを超える長身、ヨットで鍛えられたスポーツマンと、マンガの主人公であっても、ここまでの条件を兼ね備えるのは難しいくらいのサラブレッド中のサラブレッドである。

 

これで女にもてなかったら不思議だが、このタカミネが最も偉いところは、こうした「選ばれたエリート」とは思えないくらいの人間性の良さにあった。そのため、普通なら嫉妬心による大反発を食らうハズの男子からも絶大な支持があった。

 

となると通常であれば、選挙など待つまでもなく会長は御曹司で決定であったろう。ところが、この年に限っては、これだけのサラブレッドをも脅かすだけの強力なライバルが存在したのである。

 

言うまでもなく、女傑マザーだ。かの御曹司と学年トップを争う頭脳に加え、御曹司とは対照的な強靭な性格の持ち主である。そして、ズボラながら大らかな豪傑的な性質だけに、特に同性の女子から絶大な信頼を寄せられており、かなりの女子票を集めるのではないかと予想された。

 

ところで『A高』では、代々「生徒会」には強い学生自治権が与えられていた。 実際、文化祭や体育祭などといった学校行事には、教師が口を挟むようなことは殆どなく、学生自治に委ねられていたのである。こうした点を考えると、雛壇に乗っかっているだけならば御曹司タカミネ以上の適任は考えられなかったが、強いリーダーシップでグイグイ引っ張っていく行動力となると、やはりマザーの右に出る「豪の者」は皆無である。

 

生徒会長は、この2人のどちらかで決まるのは疑いなかったが、残る「御三家」の一角カトーはどうか?

ボンボン気質のタカミネや女傑マザーに対し、カトーは万事にソツがない「能吏」タイプの切れ者だ。天真爛漫とも言える2人に比べると、何を考えているのかわからないタイプの男だけに、人気は先の「2強」に遠く及ばなかった。しかしながら、カトーは「2強」にはない「地盤」という強みを持っていた。なにしろ『A高』お膝元で、学生数48人という最大票田の『A中』出身であり、また学生の半数近くを占める地元「A市在住者」というアドバンテージがあった。

 

1回目の投票結果はトップが御曹司、マザーが2位、カトーが3位と順位は予想通りではあったが、それぞれにかなり差がついていた。が、トップのタカミネも過半数には届かず、上位2名による決選投票となる。

 

御曹司タカミネに、予想以上に大差をつけられたマザーに関しては

 

「女生徒会長ってのも、ありなの?」

 

という声が聞かれたように、さしもの豪傑も「女子」というハンデは否定できなかった。

 

そうした経緯を踏まえ、決選投票前には「両候補者」による演説会が設定される。  

 

「生徒会長」の椅子にまったく色気がなさそうだったタカミネは、この演説会で

 

「生徒会長選挙というからには、それに最も相応しい人格力量を備えた人間が誰かを選ぶのが目的であって、性別とかなんとか余計なことを考えるのはナンセンスだ!

『女生徒会長ってのも、ありなの?』

というような質問が出ることからして、この選挙は既に前提において公正であるとは言い難い・・・」

などと力説した。

 

「『天海摩央は、稀に見る大天才』というセリフを何度も聞いた。このような大天才に会長をやって貰えたら、同級生として生涯の思い出に残るだろう・・・」

 

普段は、まったく大きなことを言わないタカミネであり、またこのような役にも慣れているだけにすんなり引き受けると思ったが、案に相違してやけに尻込みしたのは余程「天才マザーを押し退けての会長」を負担に感じたのか、いつにない珍しい熱弁に皆やや呆気にとられた。

 

が、続いて演壇に立ったマザーは、逆に水のように冷静だった。

 

「彼の詭弁に乗せられるようなおバカは、ここには誰一人存在しないですね・・・」

 

と笑わせると

 

「選挙ってのは、得票数の競争じゃない? あれだけ支持を集めておいて、彼は何を迷っているんでしょうか?

投票者の意思を無視するのは、選挙の否定ですね」

 

というと、タカミネの方をすっくと見据え

 

「タカミネ会長! さっさと肚をくくったらどーなの!」

 

と一喝。

やはり、恐ろしき女魁!

 

そして、いよいよ運命の決選投票。

 

1回目の投票では、どうせ2人のいずれかで決まるだろうと考えから、迷わず美少女の淳子に投票したものの、決選投票では

 

(会長に相応しいのは、果たしてどっちか・・・?)

 

と散々、迷うハメになった。

 

決選投票と決まった時点では

 

(これは、タカミネしかないだろう・・・)

 

と決めていたが、あの演説を聞くと

 

(適任と言うことで言えば、やっぱりマザーかな。マザー会長ってのも、見てみたいかも)

 

と、かつて記憶にないくらいに頭を悩ませた挙句、遂に結論が出ないまま白票を投じてしまった。

 

そして開票結果は・・・御曹司タカミネが6割以上を獲得して、遂に「タカミネ生徒会長」が誕生した。 

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