『A高』では3年に一度、冬に「マラソン大会」が行われていた。3年に一度というのは、卒業までに1度は全学生に経験させようという狙いからだったろうが、この年が開催年に当たっていた。
にゃべ属するサッカー部など、スポーツ系の各クラブで
「(20番とか30番)以内には、必ず入れよ・・・」
などと、先輩らから厳しいお達しが発せられるのが恒例だったが、幸い3年生は既にクラブ活動から退いていたから、煩い先輩はいない。幸いにして新キャプテンとなったのが、人格者のドージマだったから
「オレは何番以内に入らんかったら罰ゲームなどという、くだらん事は言わん。が、各自サッカー部員としてのプライドを持って、ベストを尽くそうではないか」
という檄が飛んだ。
「やったー!
じゃあ、何番以内とかのノルマはないんですね、キャプテン?」
と、ホッとした表情の後輩たちに
「サッカー部員としてのプライドを考えれば、20番より遅くは恥ずかしくてゴールに戻っては来られねーだろう、とは思っているがな ジロリ(;¬_¬)」
などと、ペナルティをちらつかせはしなかったものの、結局はしっかり釘を刺していた。
こうなると長距離の苦手なにゃべも、決してヒトゴトではない。元々、長距離は嫌いだったとはいえ、学年男子180人で20番程度なら本来は問題ない程度だったが、1ヶ月ほど前まで不登校をしていたせいで、サッカー部の練習からも遠ざかっていただけに、今回ばかりは体力的に自信がなかった。
サッカー部は体力無尽蔵の主将ドージマを筆頭に、ゴトーなどタフな面々が揃っていただけに、恥をかかないよう密かにズル休みを狙っていたが
「オイ、にゃべ・・・そのツラは、ズルを狙っているな・・・?」
さすがにキャプテンは慧眼の主であった。
「ゴトーよ!
明日の朝は、にゃべを迎えに行ってくれんか?」
「おー、いったるわー」
と、ゴトーにも外堀を埋められてしまった。
(こうなりゃ、ヤケクソだ・・・)
と結局諦めて、スタートラインに立った。
(校外の難コースとはいえ、たかだか5km・・・普段は優に10km以上は毎日、走らされているんだ・・・)
号砲とともに、予想通りトップグループ集団に入ったドージマ、ゴトーらに加え、陸上部のマチャやバスケ部のムラカミ、さらにはヨット部のタカミネら30人ほどがトップ集団を形成する。そのまま団子状態で、2Km辺りから市営球場へと向かう登り坂となるや、水泳部員や陸上の長距離部員らが一気に抜け出し、先頭集団が大きくバラけて来た。
市営球場のグルリを周回し、今度は坂道の下りだ。ここまでは何とか仲間に食い着いていたにゃべも、下りを終え最後の心臓破りの登り坂で力尽きた。
「先に行くぜ」
というドージマ、ゴトーらは日頃から真面目に練習に取り組んでいるせいか、まだまだ足取りは軽そうだ。坂を登り切った後、最後の『A高』の校門までの直線コースで息を吹き返したにゃべは、ノルマギリギリで何とかゴール。
結局、男子は陸上部員が優勝し、2位は水泳部員。そしてサッカー部主将のドージマは、陸上部のマチャと競り合いながら、堂々3位でフィニッシュしていた。
「サボっていた割りには、意外に走れたじゃねーか」
と、冷やかしてきたゴトーは10位、バスケ部の親友ムラカミは15位でゴール。
ヨット部キャプテンの御曹司タカミネも8位と健闘していた。
別の4kmコースで行われた女子の方は、陸上部エースで全国トップレベルのタイムを持つ大本命のみどりが、スタート直後から驚異的なスピードで他を大きく圧倒して悠々一人旅の独走優勝を飾り、注目された体操部のエース・カオリは4位でフィニッシュした。
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