交響曲第40番は、モーツァルトにしては珍しく暗い調性の曲である。大雑把に「長調」の曲は明るめの調性であるのに対し「短調」の曲は暗めの調性と言われるが、モーツァルトの場合は46曲の交響曲の中で「短調」の調性を持つものは、僅かに2曲のみと極端に少ない。ところが皮肉な事に、同じト短調の調性を持つ『第25番』と『第40番』は、どちらもが傑作として知られているのである。
前触れなく、曲の冒頭にいきなりといった感じで現われる「ため息のテーマ」(第1主題)は、モーツァルトの最高傑作のひとつというばかりではなく、音楽史に残る大変に素晴らしい旋律である。
ある評論家が
「もしモーツァルトが、生涯にこの一小節だけしか書かなかったとしても、彼の名は間違いなく音楽史に残っただろう」
と評したように、あまりの美しさにポピュラー音楽になったくらいである。
が、この曲の素晴らしさは勿論、冒頭だけではなく、その後の展開に繋がっていくところだ。
「この作品に蔵された、聴く者の存在を根底から揺さぶるほどの力は、音楽的にのみ解明しうるものではない。人生に真剣に取り組み、人間の営みを透徹した眼差しで見据える人格が、自己を全的に投入してこそ「ト短調交響曲」のような作品を完成させうる」
「とはいえ、モーツァルトはそこに「叫び」を求めたのではなかった。どんな激情をも包み込んで結晶化させてしまう厳格な芸術的形成こそ彼の求めたものなのであり、それこそがこの作品の真価を高めているのである」
モーツァルトは「もっとも苦悩に満ちた音程」(A.ホイス)とされる短二度を、基本動機として全曲にわたって使用し、これに派生する半音階的な旋律と和声に重要な機能を与えた。そしてバッハ体験以来、育み続けてきたポリフォニー技法をかつてない集中度で利用し、作品にバロックの教会様式をすら思わせる厳しい線的性格を打ち出している。
この意味で次のような指摘は、作品の本質を突くものと言い得るであろう。
「モーツァルトの交響曲のうちでも、これはもっともパトス的なものである」
しかし、巨匠はここでも
『音楽は最もむごたらしい状況においても、なお音楽であるべきです』(という、書簡で表明された美的原則)を忘れず「パトスの性格的表現の中にも美を堅持した」のである。
出典http://chichian.com/
歌曲王・シューベルトも
「この曲からは、いつも天使の歌声が聴こえてくる・・・」
と涙を流しながら聴き入っていた、というエピソードは有名だ。
かくいうワタクシ自身も子供の頃にCMで使われていた、この第1主題を初めて聴く度に子供心にも、随分と胸が高鳴ったものだ。
この曲の前半は同じ旋律が2度繰り返され、後半は同じ主題の変奏という時間にしてちょうど半分に分割される。主題の変奏は作曲家の腕の見せ所といえるが、あの緊張感のある印象強い主題が千変万化に移り変わっていく様子は圧巻で、天才の腕の冴えを存分に堪能できる。
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