2005/08/10

モーツァルト 交響曲第40番(第4楽章)

 


当時、極貧に喘いでいた(?)モーツァルトは「明日のパン代を稼ぐために」予約演奏会というものを開いて、その日の夜に演奏する曲を昼のうちに作っていたというから、とても推敲などをしている暇はなかったのである。まさに「右から左へと、書き散らかしていった」という表現こそが、ピッタリだった。

 

モーツァルトの天才としての真骨頂は、それだけのハイペースで「書き散らかしていった」事そのものではない。この「後期三大交響曲」として奉られている、僅か1ヶ月余りの間に「書か散らかしていった」3つの交響曲が、それだけの短期間に同時並行的に一気に書き上げられたとは絶対に信じられないくらいに、それぞれがまったく異なった調性と特徴を有し、なおかつそのいずれもが甲乙付け難いような最高級の傑作である、という点に尽きるのである。

 

天国を微笑しながら歩いていくような、幸せな気分に包まれた『第39番』、モーツァルトとしては珍しく暗い激情が全編に迸る『第40番』、そして音楽活動の総決算のような豪華絢爛な『第41番(ジュピター)』と、1人の作曲家が短期間に書いたとはとても信じられないくらいに、まったく懸け離れた3なのだ。

 

自らの生活感情を作品には一切持ち込まなかったモーツァルトとしては珍しく、最後の第4楽章は暗い慟哭と激情の爆発、さらに中間楽章の悲哀に満ちた寂寥感が切々と伝わってくるのも、この曲が広くファンの心を捉えて続けている大きな要因と言える。

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