残る一人のまどかこそ、中背でスリムなスタイルから身長が足りない気がしたものの、一瞬
(例のボディコン嬢?)
と勘違いしたものだったが、ハッキリ記憶していないとはいえ、顔から雰囲気から明らかにタイプがまったく違っていた。
「男か女かわからない中性的な人物」と書いたことから「容姿はD女軍団で最下位を争う?」と勘違いされたかもしれないが、決して「ブス」ではなく、ちょっとボーイッシュな童顔と言うタイプか。また童顔自体だけでなく、生粋の京女の成せる業か、普段の挙措や独特のゆっくりとした口調の言動なども常におっとりとしていて、騒々しいばかりのケーコやヒロミとは好対照だった。
また性格的にも、ケーコとヒロミが学生にして早くもオバタリアン予備軍のような、かなり強い毒を持っていたのに較べると、マドカは竹を割ったような率直な性質だから、ケーコやヒロミが苦手の自分としてはマドカだけは好感を持った。
ケーコとヒロミがともに「語学系」と言う点や俗っぽさもが共通点だったのに対し、このマドカだけは「芸術系」で、A女子大でもデザインを専攻していたこともあるが、性格的にはいかにも「芸術系」らしいユニークな性質のようだ。そもそも実家が「造園業」というくらいだから、手先の器用さなどの芸術的な才能は、やはり遺伝子によるのかもしれない。
この初対面におけるケーコの厚かましさには圧倒されたが、まったく別の意味でケーコに負けぬくらいに驚かされたのがマドカだ。こちらの3人と向こうの3人で会話が弾む中、マドカ一人だけはあまり会話に参加せずに終始うつむき加減で、なにやらひたすらに手を動かしているのである。
当初は
(この女、こんなボーイッシュな身なりに構わなそうなガラに似合わず人見知りなのか?)
などとすっかり勘違いしていたのだが、時折目をあげると3人の顔を無遠慮にうち眺めては首を傾げたり、時にはニヤッと笑ったりするのが、なんとも得体が知れなかった。
勿論、会話をリードするのはおしゃべりなケーコとヒロミだから、視線としてはそちらに目を取られてマドカをそれほど観察してはいなかったが、ほぼ俯いたままながらも何やら眉間に皴を寄せて真剣な顔をしたり、かと思えばニヤニヤしながらも盛んに手だけは忙しく仕事をしているのだ。
遂に、たまらず
「おい、そこ!
さっきから、なにやってんの?」
と怒鳴りつけてみたものの、全く意に介さないような平然とした表情で
「でけた!」
「でけた?
なに? なんのこっちゃ?」
「ほれ・・・」
と見せたのは、いつの間にやらスケッチブックのようなものに書かれたスナップショット。説明を受けるまでもなく、一目で我がトリオの似顔絵とわかるような、実に恐ろしいまでにそれぞれの特徴がしっかりと炙り出されたスケッチだった。
「わー、クリソツやん」
「ほんまに・・・プロやな~」
と、大うけのケーコとヒロミ。
「ホンマに、今日初めて描いたんかい、これ」
と、なんとも惚けた反応をするしかないホソノに
「はあ?
さっきまで会ったことへんのに、いつ描くんの?」
と一蹴するマドカ。
悔しいが、確かに一目でどれが誰かハッキリ区別できそうな傑作で、これを僅か10分足らずで描き上げたのは、全く脱帽する(不器用なワタクシでは、数日かかってもこれだけのものは描けない)
考えてみれば、実家が下鴨の造園業と言うからには、京都で代々続く家庭に違いない。そうした家柄の子は、よそ者を軽んじて馬鹿にする傾向が強いと言われるが、このマドカに限ってそれはまったくなかった。
マドカとニシモトの家が、美和の家のような代々続く格式があるかどうかはわからなかったが、この「よそ者をも分け隔てしない寛大さ」が3人に共通する美点であることは確かだった。また、マドカのおっとりした性格はニシモトとの共通点でもあり、よそ者たる自分にとっての「京男、京女」のイメージにピッタリマッチした。
0 件のコメント:
コメントを投稿