美和の母は、常にその美しく整った顔に菩薩のような優しい笑みを絶やさず、何が起ころううとも微動だにしそうにないような落ち着いた物腰で、喋り方までが普通の人とは違う独特のムードを持っていた。
(京都の格式ある茶道や華道の先生ってのは、こんな感じなのか・・・こんな母からどうしてあんな美和のような、トンデモな娘が生まれるのか?)
と、何から何まで調子が狂いっぱなしのにゃべ。
「では、そろそろ・・・」
「たいしたお構いも出来ずに・・・ほな美和・・・お客様を、お送りして差し上げて」
と京和菓子のお土産までいただき、恐縮しっぱなしの態だ。
「ほな送りがてら、ちいと歩いてくるから」
「はいはい」
「疲れた?」
いつもに戻った美和は、例の調子で探るようにして笑った。
「正直、疲れた・・しかし、あれがオマエのお母さんとは・・・どう見ても、見えねーよんだが」
「それって、どーゆー意味?」
「色んな意味で・・・第一、そんな歳には全然見えんし」
「若いっしょ?」
「もしや・・・後妻とか?」
「ちょっと!
それ、失礼やんね。うち、正妻の子やわ」
と口を尖らせた。
「幾つか?」
「あれじゃ、サッパリワカンネーな・・・どう見ても、30過ぎてるようには見えんが・・・しかしフジワラの親だから、どう考えても30後半は行ってるはずだよな・・・」
「きゃはははヽ(▽⌒*)
歓ぶやろーな、絶対」
こっちの心も知らず、美和は彼女らしいオフザケモードで楽しんでいるようだから始末が悪い。
「で、実際は幾つなんだ?」
「女性の歳を聞いてはダメかて。
そんな、知りたい?」
「とっても」
「あれでも、36なんよ」
「絶対、20代にしか見えねーよ!
にしてもエラく若くないか?」
「かて18で、うちを生んやんやもんね」
「寧ろ少し歳の離れた、ネーさんくらいに見えるよ・・・親とは絶対に思わんな」
「いつもはおべべやからもっと若いし、20代に見られへんんやわ」
「だろーな。
着物でも、20代に見えたからな」
「そうそう・・・前にコーちゃん(マサムネの事)が攻めて来よった時は、面白かったわ。
『美和の母や』
って挨拶したら
『えっ、お母はん…やろか?
ボクはまた、てっきりお姉はんかと。
いやー、ビックリやわ』
なんて言うてさ。
あれからころっとコーちゃんのこと、気に入っちゃたみたいやわ。
また連れて来いって。きゃはははヽ(▽⌒*)」
「如才のないヤローだからな、アイツは」
あの世知に長けたマサムネの事だから、あの格式高い空間でも緊張する事なく振舞っていたのだろう事は想像が出来た。
「てことはマサムネのヤツも、もう来てたって事か?」
「来た来た。
もうかなり前だけど、何回か来てるよ」
「ほーほー・・・どんな様子だった?」
「毎度の調子やん。
アイツは、ほんまに口が達モンそやさかいに。
『いやー、立派な構えで・・・ボクも一度でエエから、こんな家に住むのが夢なんですわ』
から始まりよって
今まで何人か連れて来やはったけど、おかあちゃんが一番気に入っちゃったのがアイツよ」
「アイツ」といういい方が、2人の親しさを物語っているではないか?
「手取り足取り、おぶのお作法教わったりしてたよ。」
おかあちゃんも
『ダテはんは男ぶりもええし、口も巧いやしええオトコマエやねー』
なんて感心しとったわ・・・きゃはははヽ(▽⌒*)」
あの、天下のプレイボーイの事だ・・・
かつて読んだ松本清張の『突風』と言う物語で、似たような展開で若い男が人妻を篭絡した話を思い出し、よもや美和の母を相手になにか間違いでも起きなければいいがと、次第に気が気ではなくなって来た  ̄_ ̄;) うーん
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