(な~んだ・・・)
そのメガネの女子は、いったんこっちへ向かってきそうな格好だったが、予想外にもUターンしてマンションへ戻ってしまった。
(確かK女子大の寮ということだったから、タカシマの同級生か?
次出てきたら、ちょっと声かけてみるか・・・)
と考えてしばらくすると、予感した通り歩いて門を出て来たメガネ女子。いかにも「女子しかいない安全な寮で寛いでいました」と言わんばかりの、タンクトップに短パンという実に涼し気なイデタチだ。
次に出てきたら、とっ捕まえて千春のことを聞こうか思っていたが、警戒したかどうもこちらに来る気配がない。
何本目かの煙草を灰にして、寮の方に様子見にと足を踏み出したタイミングで着信だ。
「私だけど、なんか用?」
「おっ、タカシマか?
今どこにいる?」
「え?
なにそれ?
どこにいるって・・・どういう意味よ」
「なあ、今から出てこれんか?」
「出てこれんかって・・・アンタ、今どこにおるの?」
「今、寮の前」
「え~っ!
寮の前って、もしかしてウチの寮のこと?」
「もしかせんでも、そういうことよ。今、外出中か?」
「え~っ、ちょい待って!
それ、どーゆーことよ?
なんでアンタが、ここに来てるのよ?」
「いや、そんなオーバーに驚かんでも、ちょっと遊びに来ただけだが・・・今、外出中?」
「驚くわ、フツーに。
実は部屋にいるけど、さっきまでピアノのお稽古してたから、ケータイの着信に気づかんかった。今、気付いたとこよ。」
「そんなら、ちょうどえーわ。
なあ、今から出てこれんかな?」
「今からって・・・いきなり過ぎでしょ!」
「まあ、いいじゃん。折角こうやって、わざわざ京都から来たんだし・・・」
「知らんよ、そんなん・・・勝手に来といて、折角もないでしょ?」
「そう冷たいこと言うなって。ほら、夏休みに遊びに行くって約束したじゃん。あれ思い出したんだ・・・」
「にしても、事前に連絡くらいして欲しいよ。こっちにも予定があるんだし・・・」
「とりあえず昼飯でも食いに行かねーか?」
「ったく、しゃーねーな。人の都合は、お構いなしなのね?
今日は、コーヒーだけしか付き合えないよ」
「おいおい、遥々京都から来たオレに、コーヒーだけってのはねーだろ」
「自分で勝手に来といて、よーゆーわ。まあ、相変わらずだねぇ、アンタは・・・」
それでも、ようやくちょっと笑うような声が聞こえてきた。
「すぐ近くに車停めてんだ。すぐ来て欲しいな」
「無理!
30分待っとって!」
「おいおい、30分もかかるのかよ?」
「アンタね~。女は支度に時間がかかるもんよ。いきなり来るから、こーなるんだよ。ちゃんと覚えときな!」
「ちっ、しゃーねーな。しかし、こんなとこに車置いといてえーんかな?
なんもないから、周囲から違法が丸見えだぞ」
「それ、やばいっしょ。この辺、大学関係者しかいないから、そもそも男のアンタがうろついてたりするだけで、誰かに通報されるかもよ」
「おいおい、マジかい。とはいっても、周りにはなんもねーぞ。なんかCaféでもあるのか?」
「ちょっと駅の方に入ったらCaféとかあるから、こっから一番近い店に入ってっとって。 入ったら電話頂戴。」
「了解。なるはやで頼むわ」
「しゃーないな・・・30分以内に行くよ・・・なるべく近い店ね」
ということで、30分後にようやく千春に再開となった。
思った通り、先日の喧嘩別れのことはサッパリ忘れたような顔をしているから、こちらも敢えて触れずにおく。
「今日は夕方から用があるから、ランチした後まではアンタの相手はできんけど・・・」
「へー、忙しいんだな・・・」
「アンタのような遊び学生とは違うんよ」
と皮肉をかまされた。
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