2005/10/21

千春の寮を襲う(2)

(な~んだ・・・)

 

そのメガネの女子は、いったんこっちへ向かってきそうな格好だったが、予想外にもUターンしてマンションへ戻ってしまった。

 

(確かK女子大の寮ということだったから、タカシマの同級生か?

次出てきたら、ちょっと声かけてみるか・・・)

 

と考えてしばらくすると、予感した通り歩いて門を出て来たメガネ女子。いかにも「女子しかいない安全な寮で寛いでいました」と言わんばかりの、タンクトップに短パンという実に涼し気なイデタチだ。

 

次に出てきたら、とっ捕まえて千春のことを聞こうか思っていたが、警戒したかどうもこちらに来る気配がない。

 

何本目かの煙草を灰にして、寮の方に様子見にと足を踏み出したタイミングで着信だ。

 

「私だけど、なんか用?」

 

「おっ、タカシマか?

今どこにいる?」

 

「え?

なにそれ?

どこにいるって・・・どういう意味よ」

 

「なあ、今から出てこれんか?」

 

「出てこれんかって・・・アンタ、今どこにおるの?」

 

「今、寮の前」

 

「え~っ!

寮の前って、もしかしてウチの寮のこと?」

 

「もしかせんでも、そういうことよ。今、外出中か?」

 

「え~っ、ちょい待って!

それ、どーゆーことよ?

なんでアンタが、ここに来てるのよ?」

 

「いや、そんなオーバーに驚かんでも、ちょっと遊びに来ただけだが・・・今、外出中?」

 

「驚くわ、フツーに。

実は部屋にいるけど、さっきまでピアノのお稽古してたから、ケータイの着信に気づかんかった。今、気付いたとこよ。」

 

「そんなら、ちょうどえーわ。

なあ、今から出てこれんかな?」

 

「今からって・・・いきなり過ぎでしょ!」

 

「まあ、いいじゃん。折角こうやって、わざわざ京都から来たんだし・・・」

 

「知らんよ、そんなん・・・勝手に来といて、折角もないでしょ?」

 

「そう冷たいこと言うなって。ほら、夏休みに遊びに行くって約束したじゃん。あれ思い出したんだ・・・」

 

「にしても、事前に連絡くらいして欲しいよ。こっちにも予定があるんだし・・・」

 

「とりあえず昼飯でも食いに行かねーか?」

 

「ったく、しゃーねーな。人の都合は、お構いなしなのね?

今日は、コーヒーだけしか付き合えないよ」

 

「おいおい、遥々京都から来たオレに、コーヒーだけってのはねーだろ」

 

「自分で勝手に来といて、よーゆーわ。まあ、相変わらずだねぇ、アンタは・・・」

 

それでも、ようやくちょっと笑うような声が聞こえてきた。

 

「すぐ近くに車停めてんだ。すぐ来て欲しいな」

 

「無理!

30分待っとって!」

 

「おいおい、30分もかかるのかよ?」

 

「アンタね~。女は支度に時間がかかるもんよ。いきなり来るから、こーなるんだよ。ちゃんと覚えときな!」

 

「ちっ、しゃーねーな。しかし、こんなとこに車置いといてえーんかな?

なんもないから、周囲から違法が丸見えだぞ」

 

「それ、やばいっしょ。この辺、大学関係者しかいないから、そもそも男のアンタがうろついてたりするだけで、誰かに通報されるかもよ」

 

「おいおい、マジかい。とはいっても、周りにはなんもねーぞ。なんかCaféでもあるのか?」

 

「ちょっと駅の方に入ったらCaféとかあるから、こっから一番近い店に入ってっとって。 入ったら電話頂戴。」

 

「了解。なるはやで頼むわ」

 

「しゃーないな・・・30分以内に行くよ・・・なるべく近い店ね」

 

ということで、30分後にようやく千春に再開となった。

 

思った通り、先日の喧嘩別れのことはサッパリ忘れたような顔をしているから、こちらも敢えて触れずにおく。

 

「今日は夕方から用があるから、ランチした後まではアンタの相手はできんけど・・・」

 

「へー、忙しいんだな・・・」

 

「アンタのような遊び学生とは違うんよ」

 

と皮肉をかまされた。

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