2005/10/07

六甲デート

  名神高速を、スカGで飛ばすにゃべ。

 いつかの約束通り、千春を訪ね西宮へ向かっていた。


 千春とは同じ愛知県A市の出身であり、小学校から高校までの12年間を同じ校舎で過ごした(もっとも、にゃべ側の認識は、あくまで中学時代以降から始まっていたが)幼馴染の二人であったが、大学ではこっちが京都で彼女が兵庫となり、互いに下宿生活をしていた。


 京都と西宮で普段は行き来がないだけに、彼女のことはすっかり忘れていたところへ、夏になるとひょっこりと彼女が我がキャンパスを訪ねて来たのである。


 高校までは、サッカーに夢中の硬派な学生だっただけに、女学生の中では最も親しくしていた彼女とはいえ、デートのデの字さえした事もなかったが、地元を遠く離れているという開放感から、一気に気持ちが盛り上がり

 

「よーし、西宮へ行くぞ!」


 という流れになっていた。

 

お互いに関西に来てからまだ数ヶ月という新参者だから、神戸などに対する土地鑑などはないわけだが、それでも有名な六甲山くらいは知っているから


 「六甲にドライブに行くか?」


 と、知りもしないのにいっぱしの関西人気取りで、六甲山ドライブと洒落込む事になったわけである。


 言うまでもなく、六甲山と言えば関西を代表する観光名所であり、山上には「六甲山牧場」や「六甲オルゴール博物館」などと洒落たものが幾つもあって、デートコースの定番といえた。

 

久々にルンルン気分で出発し、高速を飛ばして大阪、尼崎を過ぎると、ほどなく彼女の待ち受ける西宮に到着。

 

待ち合わせの西宮駅には、懐かしい千春が待っていた。


 「にゃべー、おはよー」


 ひときわ目を惹くのは、170cm近い大柄な体だけでなく、美しいソプラノのせいもあったかもしれない。大学では声楽科に籍を置く千春だが、後に世界の声楽コンクールで賞を獲得する事になろうとは、この時点では思ってもいなかった。


 「案外近かった。すぐそこまで高速だったし、意外と楽だったよ」
 

「でしょ」

 

「ところで、タカシマが住んでいるところに興味があるんだが・・・」

 
 「女子寮だから、入れないよ」

 
 「んじゃ、外からチラッと見るだけでも・・・」


 「ヘンな趣味があるのね」


 と笑う千春に案内され、近くの学寮へ向かう。


 「ナヌッ? これが寮か?
 まるでペンションみたいじゃねーか?」


 「結構、オシャレでしょ?」 


 「そーいやK女学院ってのは、お嬢さん大学らしいよな?」 


 「ちょっとぉ。いつまでも感心してないで、早く出してよー。誰かに見られちゃいそうだし、気になる・・・」 


 「りょうかい」

 
 と、一路神戸へ向かう。 

 「で、どこ行くつもり?
 やっぱり異人館とかに、行きたいの?」 


 「そりゃ神戸といえば、まずは異人館だろ・・・なにか問題ある?」 


 「六甲のドライブじゃなかったん? それだと六甲行きが遅くなっちゃうし、異人館はまた今度にしない?」 


 「それもそうか・・・んじゃ、六甲へ行くか・・・」 


 当初の腹積もりでは、まず六甲山をドライブした後に「六甲山牧場」などを見学。その後に関してはお互いに触れてはいなかったが、密かなプランでは有馬温泉のどこかの宿にしけこんで一泊し、翌日は山を降りて異人館、神戸港、元町南京街辺りを千春の案内で散策、という妄想を漠然と頭に描いていた ( *^艸^)ムププ

 

 (さっきの「また今度」というのが気になる。
 泊まり覚悟で出て来ていれば「また明日」となるはずだが・・・

いずれにしても、こうして六甲までのこのこ着いて来たくらいだから、それなりの気持ちはあるんだろう)


 などとと算段をめぐらす、こちらの心を知ってかしらずか、千春の方はいつに変わらぬ朗らかな嬌声を上げていた。


 そうこうするうちに昼を迎え、いつになく早起きして車を走らせながらパンを齧ってきただけの腹の虫が鳴くのを合図のように、山中のこじゃれたレストランに入る。


 「うーん、やっぱり空気が旨い。自然はいいねー」


 「ここが神戸なんて、信じらんないよね」 

 

レストランでテーブルを挟み向き合うと、千春の美しさには改めて目を見張った。高校時代までと違い、化粧も上手くなったせいもあったろうが。


 (中学生時代から可愛かったが、ドンドンと綺麗になってきたな。今が一番、キレイな盛りかも・・・) 

 

そのうえ高校時代までの、あのじゃじゃ馬的な気の強いところがすっかり影を潜め、性格的にも穏やかになって来たように見えた。 


 「なあ、タカシマ・・・なんかちょい性格が変わったんじゃ?」 


 「誰が? 私のこと? 

そう? よーわからんけど、初めての地で知らない仲間に囲まれて、集団生活してるせいかな?」


 「そうだよなー。オマエが集団生活なんてイメージ合わんしな」

 
 「どういうことよ、それって」


 といった調子で、他愛のない会話が続いた。

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