2005/10/23

千春の寮を襲う(3)

実は、今日がダメだった場合は

 

「今度は飲みに行こう」とか「次はゆっくりできるんだよな?」という約束を取り付けるつもりだったが、これだけ忙しそうな様子を見て、ついそれも言いそびれていると

 

「今度来るときは、事前に連絡くらい欲しいわ。これでもレッスンとか入ってて、なかなか時間が自由にならんから、事前に調整がいるんだよ」

 

「ほー、なるほど。わかったよ。」

 

「今日みたいに、いきなり寮の近くまで乗り付けて、周りうろついてたりしたらマジで通報されるよ。私が恥かくし、止めといてね」

 

「マジでか?

通報って、誰がするんだ?」

 

「そりゃ、学生とか。寮母とか。ウチの寮母は超煩い人だから。過去にも似たようなことで通報された男が何人もいるし。これ、覚えといて」

 

「ひえ~。そりゃ、かなわんな・・・」

 

ここで例のメガネ女子のことを思い出した。

 

「そーいや、なんか門のとこで出たり入ったり変な女がいたが・・・あれは見張ってたとか?」

 

「マジ?

それって、メガネかけたおばさんじゃなかった?」

 

「いや、眼鏡はメガネだが、どうみても学生だろう。チラ見だから、メガネの小柄な子程度の印象しかないが・・・どう見ても絶対おばさんじゃねーな」

 

「ふーん。もしかしてミユウかなぁ・・・?」

 

と独り言をいうと

 

「ねえ。今、私立て込んでるんだ。ちょっと先でもいいなら、都合付けてこっちから連絡するから。そん時は、神戸とかも少しは案内してやるわ」

 

「ほんとか。まあ、こっちは年中暇だから、いつでも呼んでくれよ」

 

というと、千春は以前のように手を叩いて爆笑した。

 

「しかし相変わらずだねー、アンタって!

天下のX大行っても、まだ勉強しないんだねー。それでも留年の心配がないって、ある意味羨ましいよ。」

 

「皮肉かい、それ?」

 

「全然。だって嫌いな勉強をしなくてもいいんだったら、好きなことに打ち込めるし。普通ないでしょ、それ。あんな日本中から頭いい人ばっかり集まってるとこでね・・・」

 

「その話は置いといて、夏休みに帰省とはかするんか?」

 

「そう、それよ、問題は!」

 

と、千春はテーブルを叩いた。

 

「やっぱ、夏休みくらいは帰省せんとだよね?

さっきも言ったようにレッスンとか立て込んでるし、正直すっげー面倒なんだけど、親が帰れ帰れって煩くてね。

にゃべは?」

 

「うちは別に何も言ってこんな。これまでも金がなくなった時に電話するくらいだったから・・・」

 

「そうそう。私も結構、お金送ってもらってるから、夏休みくらいは帰らんわけにいかんしねー。まあ、でも(A高の)同級生で会いたい子もたくさんいるから、帰ろうとは思ってるけどね。でも夏休みの課題とか多いんだよね、うちは」

 

どうやら「天下のX大」とはいえ「暇な文学部」とは全く異なり、名門の音楽学部ともなると大変らしいことが、この時の千春の話でようやくわかって来た。(あるいは彼女が特に期待され、教授などから嘱望されていたためだったせいかもしれぬ。こういうことに関してなぜか自慢めいたことは言わない女だけに、真相はわからなかったが)

 

「にゃべも、夏休みの課題とかあるんでしょ?

なんせ天下のX大様だし・・・?」

 

「オマエな~!

さっきから、異常に『X大』というのを強調しすぎじゃねーか?

どうも、ひっかかるんだが・・・」

 

「別に・・・強調する気はさらさらないけど、フツーに考えてX大ちゅーたらメチャ大変だろーなって思うでしょ、世間的には」

 

「へー、そーなん?

オレは中におるからまったくわからんけどな。まあ、自由な校風だし、夏休みだからと言って別に課題的なものはなかったと思うが・・・だって、そもそも『夏休み』ってのは「遊ぶための休み」なんだよな?」

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