2005/06/19

ハイドン 交響曲第100番『軍隊』(第1楽章)


交響曲の始まりは、バロック時代のイタリア・オペラなどの序曲として扱われていた「シンフォニア」が、その原型と言われる。その後、シュターミッツ親子に代表される「マンハイム楽派」らによって、オペラから独立した独自のジャンルとして進化を遂げた。

 

ナポリ派のサンマルティーニやシュターミッツ親子、或いは大バッハの息子らに先んじられたとはいえ、あの膨大なオーダーのみにとどまらず、今日的な交響曲の概念にまで昇華していった功績からしても、やはりハイドンこそは《交響曲の父》と呼ばれるに最も相応しい存在である。

 

ところで、物事にはどんな事にも裏と表があるように、ハイドンの《交響曲の父》という評価も大きく二分される。表の評価は言うまでもなく、天才モーツァルトの41曲を遥かに引き離す「104曲」(協奏交響曲を除く)という、気の遠くなるような膨大な交響曲を遺したという多作な才能だ。一方、裏の評価は  「数は多いが、どれも面白みに欠ける」 、「単純な曲調が多く、飽き易い」といったようなものだ。

 

確かに初期の頃の曲を聴くと、素人目(耳)には交響曲と言うよりは、今日的感覚では弦楽四重奏曲に毛の生えた程度の規模で、ロマン派以降のゴテゴテとした交響曲を聴き慣れた耳には、単純で物足りないような思いは否めないのも無理はない。

 

ただし結論を言えば、ハイドンの交響曲が「飽き易い」というのは勿論、皮相な見方に過ぎない。実際には、どれもが一筋縄ではいかないような凝った構成で練りに練られ、地味ながらスルメのように聴けば聴くほどにジワジワと、深い味わいが滲み出してくるのである。

 

では、この100を超える膨大なオーダーの中で

「一体、どこから手を付けたら良いのか?」

と立ち往生の方にお奨めするとなれば、晩年の最も脂の乗り切った時期に作曲された『ロンドン・セット(ザロモン・セット)』が真っ先に推奨される。

 

つまり前期6曲(第93番~第98番)、及び後期6曲(第99番~第104番)の全12曲だ。まずは、どれを聴いても円熟した技巧が冴え渡る名作・傑作揃いだが、親しみやすさと言う点ではなんといっても、それぞれユニークな標題の付けられた有名な『驚愕』(第94番)、『軍隊』(第99番)、『時計』(第101番)などが真っ先に挙げられる。

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