ムラカミの通う『N大』は、地元占有率が約8割と言われていた。他の旧帝大の地元占有率は精々5割程度だから、いかに異常な地元占有率かがわかるが、これは名古屋という「排他的」な土地柄のなせる業だ。
これに対して『X大』の方は、大学の発表した資料を見る限り地元(京都・大阪・兵庫・奈良)の占有率は6割程度ということだったが、なんといっても「関西弁の大声に代表される押しの強さ」が際立つせいか、はたまたこれに圧倒されて地方学生が萎縮してしまうせいか、体感的には「関西人ばっかり」というのが実態だった。
実は自分と同じ愛知の高校出身者は案外に多く、大学提供の資料によればトップ大阪の20-25%は別格としても、2位の兵庫と3位の京都(10%程度)に次ぐ4番目に位置していた。
「まさにオレが、その状況よ・・・」
「信じられんな・・・というか、実に愉快なことだ」
「遊ぶな!」
「いや、スマンスマン・・・オマエとしては、ジョークと言って客観的に笑い飛ばせる状況じゃねーってことだけはわかった」
「暢気なこと言ってるな。地元学生でございちゅーて、デカい面してるオマエにゃ想像つかんだろーて」
「まあ、そう憎まれ口叩くなって。それというのも、すべてはガラにもない『X大』に行ったオマエの自業自得じゃねーのか?」
「それは、いわんこっちゃ」
「仕方ねーな。よし、じゃあオレが元気づけに行ったろーか?」
「おう、それでこその友達じゃ。来い!」
「まあ『X大』に興味もあるし、1回くらいは行ってもえーぞ。そう遠いわけでもねーしな」
「そうそう。こっちは一人暮らしだから、泊りでも全然えーぞ。大したもてなしは出来んが」
「だよな。おっしゃー、じゃあそのうち行こうかい」
「いつ来る?」
「いつと言っても、こっちもまだ入学したばっかりで立てこんどるからなー。GWにするか」
「GWか・・・ちょっと先だが、まあええだろう。じゃあ、また連絡くれんか?」
「オマエの方から連絡くれてもえーぞ」
「そこはそれよ。セコイ話だが、オマエは電話代は親持ちだろ。こっちは、仕送りの中から遣り繰りせにゃいかんのでな・・・」
「あー、そーいう事情か・・・よし、じゃあ、こっちから連絡したるわ。」
さすがは刎頚之友、久しぶりであっても、すぐにこっちの状況を理解できる賢さだから、スムーズに話が運ぶ。やはり友というのは、こうでなくてはだめだ。
「じゃあそういうことで、よろしくな・・・」
と通話を終えようとすると
「なあ・・・」
「ん?」
「GWまでは、まだ半月くらいあるわな。そのころには、オマエにも彼女や連れがようけ出来て、もうオマエ来んでもえーわってなことになってりゃ、オマエにとっては幸いだろうがな。そん時はまあ、遠慮なく言ってくれ」
「コノヤロー、嫌味かい!」
などと毒づきつつも、改めてこの度量の大きな刎頚之友を見直した。身は歩いて5分の家から数百キロまで遠く離れたものの、心は変わらず繋がっていたらしい。
「で、オレは、それまでどう振舞えばいいんだ?」
「どう振舞うかって・・・そこは自然体でええだろ」
「チっ。一応、真面目に聞いたんだがな・・・」
「オイオイ、真面目に答えたぞ。そのうち皆がオマエの魅力に気付くか?
そうでなかったらオマエに魅力がなかったってことで、結局それしかねーだろ。友達や彼女を作ろうとか、変に焦って動くことはねーと思うけどな。それは自然の摂理に任せとけば、なるようになるか、まあどーにもならんか・・・」
「そーゆーもんなんか・・・今はオレも、疑心暗鬼になっとるかもしれん・・・」
「ああ、そーゆーもんだ。話聞く限り、今はまだ時期尚早じゃねーかと思う。オマエはオマエらしくどっしり構えとけば、そのうちどうにかなりそうな気がするんだけどな。まあダメだったら、オレが行ったときに作戦会議だな。いずれにしても、あんまり焦らんこっちゃ・・・」
「了解」
最初こそ
「あのヤロー、人を笑いものにしやがって!」
と腹が立ったが、時間が経つにつれ実はムラカミが彼一流の巧妙な言い回しで、遠回しに励ましてくれていたことに気づくに及び
(これをきっかけとして、意外とこれからのキャンパスライフが良い方向に向かっていきそうな気がしてきた。しかし『X大』に、果たしてムラカミほどの人物がいるかいな?)
などと、すっかり考えを改めたくらいだから、やはり真に心を割って話せる唯一の畏友が、この時ほど神か仏のように思えたのも無理はなかった。
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