社長令嬢として、名古屋随一の高級住宅地・東区白壁のお屋敷に生まれたK子(仮名)。当時、名古屋で「白壁のお嬢さん」といえば、だれもが「ホォー!」と溜息をつかずにはいられないほどの金持ちの代名詞だった。
子供の時から成績の良かったK子は、中学から同じ白壁に鎮座まします明治22年創立、中部地方では最も歴史のあるミッション系スクール『金城学院』に通う事になる。
※『金城』とは名古屋城の事・・・創立当時、校舎の屋上から、名古屋城のシンボルである金の鯱が見えた事が、この名の由来である。ただし校舎はその後、大森に移転した。ちなみに『金城学院』の制服は「日本最古のセーラー服」と言われる、伝統的な黒地の襟に白の一本線である。
金城学院高等部時代に、親戚の叔母とその娘(『S女学園小学校』生)の3人で、名古屋随一の規模を誇る『東山動植物園』に出かけた或る日の出来事だ(同じくお嬢様学校の『椙山女学園大学』は、この『東山動植物園』すぐ上の閑静な高台に星ヶ丘キャンパスを構え「御三家」の残る一つ『愛知淑徳』も、すぐ近くの桜ヶ丘に中学・高校の校舎を構えていた)
叔母さんから
「お金は私が持ってるから、あなたたち財布なんか持たなくてもいいわよー」
といわれ、無一文で出てきたK子と小学生の姪の2人は、園内の混雑に巻き込まれ途中ではぐれてしまった。思わぬ展開で、無一文となったまま放り出されてしまったK子。小学生の姪を連れ途方に暮れたが、そこは芯の強いしっかり者だけに、すかさず思案算段した。
「えーっと・・・お弁当は持って来てるし、後は2人分の入園券を買ってアイスクリームを食べて、帰りのバス代を入れても・・・1000円もあれば、充分足りるんだけどなぁー」
と計算を巡らすと、目に付いた管理事務所へ駆け込んだ。
「スミマセーン、オジサン!
叔母とはぐれちゃって、お金を持ってないんです。必ず返すから、1000円貸してくださらないかしら?」
ところが運悪く出て来た管理人は、高校生の娘にはオジイさんといった方が適当な60年配で、無愛想を絵に描いたような人物だった。
「家はどこだい?
齢は幾つ?」
など、ぶっきらぼうな調子で質問(訊問?)を浴びせるや
「そんなら1000円もいらんわ・・・まあ500円もあれば、充分だわなー。本当なら、金を貸す事はできーへんが、まあしゃーないで、500円持ってきゃあ」
「なーに・・・厳めしいオジーサンだこと・・・」
と舌打ちしながらも地獄に仏とばかり、ともかくも500円を手にしたK子は入場券を買い求め、姪と持参の弁当をぱくつきながらアイスクリームを買い、バスで白壁のお屋敷に帰るまで、確かに500円でお釣りが来た。
さてお屋敷に帰ると、青い顔をした叔母が
「まあ、良かった、良かったわ!」
と、姪に頬擦りせんばかりに無事を確認して胸を撫で下ろしていると、そこへ鬼の形相で現れたのは「良いとこの出」で誇り高きK子の母だ。
「まあ・・・貴方って一体、なんて人なの?
自分の娘の事ばかり心配して・・・ウチの娘は、まるでどうでも良いみたいだわね。 そもそも貴方がボンヤリしているから、こんな事になったのじゃなくて?」
と大カミナリが・・・人一倍気位が高く、見栄の塊だった祖母は
「若くて向こう見ずなのは良いけど、見知らぬ人にお金を借りるなんて恥と知る事よ! なんにせよ、借りたものは早く返すのが鉄則・・・明日一番にでも、必ず返しに行きなさい」
お屋敷の広大な庭には、大きな栗の木があった。伯母は自ら庭に降りると、優雅な手つきで栗を毟り取り、さらに所有の畑からサツマイモを掘り出す事を下男に命じた。
(たった500円ぽっち借りたくらいで、そこまでする必要があるのかな?)
と、小首を傾げるK子の心を見透かしたように
「なんにせよ受けた親切に対しては、こちらも親切で応えるものよ・・・」
と、祖母は優雅に笑った。
翌日、早速管理のオジサンを訪ねたK子。
「オジサン、昨日はありがとう!
御蔭で助かりました・・・これは昨日のお礼です」
と、小さな手一杯に抱えた栗とサツマイモの入った袋を差し出すと
「ありゃりゃ・・・こりゃ、驚いた!
本当に(返しに)来るとは思わんかったわ・・・それにしても、こりゃ一体?」
「うちの庭や畑で獲れたものよ・・・どうぞ召し上がってください」
と差し出され、さすがの偏屈ジーさんも目を丸くするしかなかった。
後にK子から、その話を聞いた叔母は
「そのオジサン、寸借サギかと思ってたのねー。失礼しちゃうわ。このお屋敷見たら、さぞかしビックリするから」
と、景気よく笑っていた ヾζ  ̄▽)ゞオホホホホホ
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