「キミ!
早く、お客様に謝らんか!」
「嫌だね・・・なんで不当に言いがかりを付けられたオレが、謝る必要があるのか?
最初にこのオッサンが、ワケのわからんイチャモンをつけてきたんだが・・・事情もわからずに、口出しするのは止めて貰いましょうか」
「アンタと言うヤツは・・・」
思わぬ返答に呆気に取られているフロマネを尻目に、偏執狂のようなオヤジは
「オイ、若造!
屋上へ来い!
武道で鍛えたこのワシが、オマエの腐った性根を叩きなおしてやる・・・まだまだオマエのような小僧に負けるほど、落ちぶれちゃいないぞよ・・・」
と、メガネを外してシャドーボクシングのような大見得を切ってみせたから、ここに至って完全にぶち切れまいことか (メ-_-)ノ~┻━┻ガシャーン
「オマエの逝かれた頭の方こそ、叩きなおしてやるよ」
思わぬ展開に頭を抱えていたフロマネは、最早自らの手に負えぬと見たか、おっとり刀でオーナーを連れて来た。
「オイ、なにやってるんだ、オマエは?
自分のしている事が、わかっているのか?」
「なぜだ・・・なぜ、オレが悪者にされる?
オレはただ双眼鏡で、少しばかり売り場を眺めていただけなのに・・・それが、それほどの犯罪的な行為なのか?」
「売り場を眺めていたんじゃなくて、ずっとワシの事を追っていたのだ・・・この小僧は」
「くだらん言い掛かりだ。
いったい美人や有名人ならともかく、何が悲しくてそんなしけたオッサンなんぞ見るかどうか、冷静に考えてみりゃ誰でもわかりそうなものだが・・・」
「それは、キミの勝手な思い込みだ・・・実際に、この方はキミに観察され、不快を感じたという事実があるのみだ」
「それこそ事実どころか、勝手な思い込みだろう・・・誇大妄想というしかない。
いくら接客業だって、頭の逝かれた誇大妄想狂に無意味な謝罪までしなくてはいかんなどという無法はないだろう?」
「いずれにせよ、キミのような人物はわがデパートには相応しくない。
フロアマネージャーとして、そのような接客態度は絶対に許しがたい!
即刻、退場を命じる!!」
「相応しくないとは、笑わせるぜ。
相応しいかどうかを審査する役目を放棄して、人を散々待たせた挙句にスッポカした適当なヤツが、今更そんなことを偉そうによく言えたもんだ」
「ああ、もう・・・ああ言えばこう言う・・・よくよく性根の腐った男だ・・・社長、彼をなんとかしたまえ・・・」
「まことになんとも、申し訳ありません。
私の監督と教育不行き届きのせいで、このようなご迷惑をかけてしまいまして・・・今後の処遇については、これから彼と話し合いをします・・・」
「いずれにしろ、デパートの意向はひとつだ・・・」
「承知いたしました・・・では、失礼」
「ちょっと待った!」
オレはもうクビを言い渡されたようなものだし、その前にとっくの昔にこっちの方から愛想をつかしたが・・・と言う事はこのオッサンに対しても、もうなんら遠慮する必要なんぞは、金輪際ないってことになるよな?」
と憎いオヤジを思いっきり睨み付け、空手と少林寺仕込みのキックによるハイキックのデモンストレーションをやって見せると、思わぬ成り行きとなったその愚か者の目には、明らかに怯えの色が浮かんでいた。
「それにだ・・・偉そうにしているフロマネとやらにも、言いたい事が山ほどあるんだが」
とフロマネの方に一歩を踏み出すと、軽蔑と怯えの入り交ざったような表情で
「なんだね・・・言ってみたまえ」
と、あくまで上から目線で威厳を取り繕う、憎いフロマネを睨みつけ
「そもそもアンタは、ことの一部始終を見ていたのか?
事情はわからんが、ともかく客に絡まれているってだけで、オレを一方的に悪者にしたんだろーが?
なんで、こんなくだらんバカ騒ぎになったかの真相追及もしようとせず、なんでもかんでも臭いものには蓋というのが、フロマネとやらの仕事なのか?」
言葉を失っているフロマネに代わり、オーナーが
「まあオマエも色々と言いたいことはあるのかもしれんが、場を弁えてとにかくオレと一緒に来てくれ・・・ここは、オレの顔を立てるつもりで・・・」
仕方なく一旦矛を収め、無言のまま早足で歩いていくオーナーの後を着いて行くと、駐車場に停めてあったオーナーのクラウンに乗るように言われた。
タバコを深く吸い込んで、煙を吐き出すと
「まったく・・・バカなことをしでかしやがって、オマエというヤツはよ!」
と言った。
「ああ・・・社長までが、そんな事を言うとは・・・社長くらいは説明しなくても、真実をわかってもらえると思ったのに!
実に嘆かわしい・・・」
思わず本音が嘆きとなって迸ったが、例によって無表情を絵に描いたような社長は、あくまでも冷静だった。
「真実とは、一体なんなんだ?」
「もういいよ・・・話す気もなくなった・・・」
「いいから、言ってみろよ。
オレだって、真実というのを知っておきたいからな・・・」
「今後のデパートとの話を、有利に進めるために?」
「うむ・・・まあ、それも・・・ないとは言えん。
うちの店員がただの荒くれ者ではなく、正当な主張をしたということは証明したいからな・・・」
「もう、止めましょう。
オレは、もうクビになったようなものだし、今更ああだこうだとグダグダ言ってもしょうがない・・・」
「そうか・・・」
と、少し沈黙すると
「それでオマエは・・・これから、どうするつもりだ?」
「は?
そんなの、どうだっていいでしょ・・・社長には関係ない話さ。
じゃあ、オレはこれで・・・」
と、車から降りようとすると、このあまり怒る事のなさそうな社長が、ビックリするほどに声を荒げて怒鳴った。
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