そんな状況でデパートの販売部に挨拶に行ったのだが、担当のフロアマネージャーがミーティング中とかで少し時間がかかるという事もあって、先に売り場を見るという流れに。
脇の小さい方のエレベーターの真ん前で、印章などを販売している隣の一角という、ロケーション的にはデパートの中で最も目立たない場所だった。
最初の説明にもあった通り、財布やバッグなどにネームを入れるのが、そこでの仕事だ。
ボーっと見ている間に社長は忙しく立ち回り、デパートの関係者と連絡を取り合っていたようだったが、しばらくすると電話を終えた社長がやって来た。
「どうもフロアマネージャーは、忙しくて時間が取れないらしい・・・総てオレに任せるという事だったので、さっそく明日から来てくれないかな?
メガネの件は、取り敢えず何か言われたらオレの方で対処するから、それから改めて考える事としよう・・・」
その日は、契約条件などの詳細を詰めた。
この社長は真面目を絵に描いたような人物だけに、最初のうちは取っ付きの悪さを感じたものだったが、小なりとはいえさすがは一国一城の主だけにさすがはしっかり者で、実際に現場で周囲の店の人々からの信頼の厚さを見ているうちに、次第にこのムッツリ社長を見直しつつあった。
「明日は、オレも忙しくて店に出られるかどうかわからんが、誰かがいるからその人に訊いてやっていてくれればいいよ」
こうして翌日から、いよいよデパートに出勤する事になった。
翌日、約束通りデパートへ行くと、社長が待ち兼ねたように
「じゃあ、早速フロマネ(フロアマネージャー)と顔合わせだ・・・来てくれ」
残った女子大生に
「あと、よろしく」
と言い残した。
売り場の奥まったところに、従業員の控え室やらなにやらの部屋が幾つかあるらしいが
「キミはまだ、ここに入る権限を貰ってないから、そこ(売り場の隅)で待っていてくれ。
フロマネを捕まえたら、オレが呼びに来るから・・・ガラでもなく、少しは緊張してるか?」
「いや、全然。
今日顔合わせがあるって事、すっかり忘れてましたよ・・・」
「やっぱりそうか・・・しかし、そういう事はオレ以外の人間には言うなよ」
「なんで?」
「なんでもだ・・・」
と言い捨てると、社長は「伏魔殿」に消えていった。
予想以上に待たされた挙句、社長がしかめっ面をしながら戻って来た。
「どうも参ったな・・・フロマネが、なかなか捕まらなくてな。
やっと捕まえたと思ったら緊急でミーティングが入って、午前中はとても顔合わせをしている時間は取れそうにないらしい・・・午後からにしてくれ、という事だった」
「で、どうすればいいのでしょう?」
「そうだな・・・顔合わせが済んでないうちに現場に入れるわけにはいかんから、悪いが(デパートの)中にある喫茶店かどこかで、待っていてくれないかな?
勿論、コーヒー代はこっち持ちだ」
といった経緯で、午前中は虚しく時間を潰するとになる。
午後の指定された時間に再度出向くと、今度は
「さっきの話では、午後からは一緒に入って来てくれという事だったから・・・」
と、今度は社長と一緒に「伏魔殿」の中に入っていくと、デパートだから当たり前の事だが制服の女性ばかりが闊歩している。
その中を腰を低くしながら足早に歩いていく社長の滑稽さに苦笑しつつ、抜け目なく女店員を品定めしながら後ろを着いていく (`m´+)ウシシシ
「フロマネ」とやらが控えているらしい部屋は、さらに奥にあった。
(果たして「フロマネ」とやらは、どんなオッサンかいな?)
などと、勝手な想像をめぐらせていると
「ここからはさらに許可がないと入れないから、ここで待っていてくれないか・・・準備が出来たら、呼びに来る」
と、さらに先ほどと同じように待っていると、案外に早く社長が戻って来た。
「ようやく、出番ですか?」
(随分、待たされました・・・)
と、イヤミのひとつも言ってやろうと待ち構えていると
「いや、それが実はな・・・色々とミーティングが重なってしまって、今日の顔合わせは難しいそうだ」
( ´Д`)はぁ?
「まあ歩きながら、話を聞け・・・ともかく売り場へ戻る」
と訳が解からないまま、現場へ向けて歩くことになった。
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