兄マッハが、高校受験を迎えた。
当初はトップクラスだっただけに、学区トップの進学校『A高校』にすんなり入学の運びとなるはずだった。
が、陸上部のエースとして、連覇のかかる『B中』の鬼コーチに連日しごかれ続けるに至り、受験勉強には身が入らぬまま成績は次第に下降線を辿っていき、受験を迎えた時期には学区トップの『A高』のボーダーを下回っていた。
担任からは、合格保証で隣町にある『T高』への進学を勧められる。
己惚れ屋の父は、常日頃から
「オレの子なら『A高』に入って当然」
と信じて疑わなかっただけに、これにショックは隠せず
「元々、マッハは『A高』の実力があったのに、M(陸上部の鬼コーチ)の犠牲になったのだ!」
などと激怒していた。
そういった経緯が関係してか、或いはまったく関係なしにか、ともかくこの頃から生来の人間嫌いと秘密主義が一段と嵩じていたマッハは、何故か同級生の多くが進学する『T高校』をあたかも敬遠するかのように、知らぬ間に遠く離れた『Y高校』を志望するという暴挙に出る。
確かに『Y高校』は、学区内では『A高校』に次ぐ偏差値で『T高校』よりレベルは上だったが、これまで『B中』から『Y高校』へ進学するのは一般的ではなかっただけに、同級生で受験するものは皆無。
が、そのような常識に捉われる男ではない。
進路相談で、学校を訪問した母は
「そんなことひと言も言わないから、わざわざあんな遠くの学校を志望してたなんて、先生から聞かされて初めて知ったよ。
当然『T高校』へ行くものと思っていたのに・・・ああ、まったく格好悪いったらないわ・・・」
と嘆いたように、両親には一切相談せずに知らない間に全部、一人で決めてしまっていた。
そして一旦、自分で決めたらテコでも動かない筋金入りの頑固者だけに
「『T高校』へ行け!」
という両親の説得はまったく受け入れず、強引に『Y高校』で押し通してしまった。
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