2003/07/01

若き闘争の日々・第1章(1)



 とにもかくにも早く仕事を決めなければいけない、というところまで来ていた。
 
 当時は、現代のように「違法広告」などと煩い事は言わない大らかな時代だったから、今で言うベンチャー企業などはかなり胡散臭い広告を堂々と出していた。
 
 新聞の求人案内で
 
 「無料で英会話が学べ、しかも給料が○○万」
 
 との広告に釣られて早速、面接に出かけたのは英会話の教材販売で知られる「B社」である。
 
 面接会場に入ると、思いのほか多くの人だかりが出来ていた。
 
 おもむろに役員らしき人物が入って来ると、いきなり
 

「やる気の無い人間はいますぐ、出ていけ~」
 

 と叫んだ。
 
 不思議なもので、いきなりこのように言われると気勢を殺がれるというか、案外に帰る人間はいないものだ。
 
 いや、内心では帰りたくても、最初に席を立つのは結構度胸が要る事で、誰かが席を立てば雪崩式にその尻を追うようにしてゾロゾロと逃げていくものだろうが、生憎とこの時は役員の気迫に押されたか、誰も席を立つものがなかった。
 
 こうしたケースで真っ先に席を立った「実績」を持つワタクシも、この時はまだ「高収入」を夢見て、おとなしく席に収まっていた。
 
 そして、長広舌の説明が始まった。
 
 当社は、学校の図書館とかにある百科事典などを作っている・・・から始まり、2時間にも及んだ挙句、希望者は全員採用である。
 
 求人広告では、職種は「事務」となっていたハズだったが、実態は「営業」である。
 
 しかも、同社が販売する英会話の教材と、経営する英会話スクールへの入学の勧誘だ。
 
 要はセールスだが、初心者はテレアポから始める。
 
 「キャッチセールスは一切なく、確実に契約できる顧客なので心配しないでくれたまえ」
 
 とのコトで
 

 「やる気さえあれば、必ず契約できるのだ!」



 という決まり文句を、壊れたテープレコーダーのように繰り返していた・・・

 入社といっても、そのような胡散臭い会社だから保険や通勤手当はおろか、給料すらない
 
 あくまで契約を取ってこないことには、一銭にもならない仕組みである(要は「完全歩合制」)
 
 その上、求人広告には
 
 「社員になると、外人講師から英会話が無料で学べる特典あり」
 
 と書いてあったはずだったが、実態は
 
 「契約を3本とると、英会話スクールに無料で入れます」
 
 というものだった。
 
 どこから手に入れたか、膨大にある名簿のようなリストを渡されると、説明会終了直後に事務所に導かれ、片っ端から電話を掛けて自社の教材のPRをしていくよう指示された。
 
 早い話が、電話の遣り取りで少しでも興味を示した客にアポを取り訪問販売をしていく、あの悪評高い「キャッチセールス」の類の外資系企業というのが実態である。
 
 面接時の説明では
 
 「一セット売ったら、報奨金が5万円・・・ただし独力の場合だけどね。
 
最初はベテランに付いて、セールスのコツを覚える。
 
慣れてきたら、一人で行って貰うよ。
 
  ま、うちの教材ならフツーにしていても週に1本は売れるはずだから、最低でも月に20万くらいにはなるはずだ。
 
  コツを掴んだ人なら、アナタのように20歳そこそこの若い人でも、週23本は売るからね・・・これで、月収は50万。
 
月収100万くらいはゴロゴロといるし、実際年収数億円も何人もいて毎日ポルシェで出勤してるぞ。

 ちなみに名古屋支部長のオレなんかは、月100-150くらいだからまだまだかな」
 
 などと吹いていた。
 
 (ホンマかいな・・・)
 
 月に100-150万といえば、毎週56本はコンスタントに売る計算だからいかにもウソ臭い気がしたものの、週に1本や2本くらいなら案外簡単そうに思えたから
 
 (仮に、月で6本を売れば月収30万となり、大卒初任給が20万弱程度だろう事を考えれば、遥かに稼げるかも・・・)
 
 などと、愚かにも取らぬ狸の皮算用をしていたのだった (`m´+)ウシシシ

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