「関係ないだと?
オレには、本当に関係ないのかよ、オイ!
じゃあなぜ、オレは急に呼び出されて、フロマネに謝らなきゃならんかった?
何故オレは新しい出店計画で忙しいのに、ここでオマエとこんなバカゲタ話をしているんだ?
ふざけるのも、いい加減にしろ!!」
普段から、喜怒哀楽の感情というものがまったくないのではないか、と思っていたあの偏屈社長の突然のこの剣幕には、驚くまいことか (/||| ̄▽)/ゲッ!!!
「自称・武道家」のあの大バカ者よりは、遥かに真実の迫力があった。
「しかし・・・」
「違うのか?
総ては関係あるからこそ、こうなってるんじゃないのか?」
「じゃあ・・・じゃあ何故、謝ったんです?
オレは、あそこで社長に謝って欲しくなかったのだ・・・」
と激情が突き上げてきたが、オーナーは無言だった。
「なんで
『うちの者が、そんなバカげた真似をするはずがない!』
と、胸張って堂々と主張してくれなかったんです?
なんでわけもわからないのに、あんなバカに謝ったのか?
本当にオレが、あんなのを双眼鏡で追ってたと思ったんですか?
本当は、オレのこと信用してなかったんじゃねーの?」
「オマエが、そんなバカな真似をしたなどと、オレは夢にも思っとらん。
あれは、向こうの勘違いだろう・・・いや、オマエの言う通り「言い掛かり」かもしれん。
しかしオマエには、オレの立場もわかって欲しかったのだ・・・」
「それは、お互い様でしょ?
じゃあ、オレの立場はどうなる?
オレが
『実は、ジーサンを眺めておりました』
と嘘を吐いてでも謝っておけば、総ては丸く収まったと?
フン、冗談じゃない!
あれは勘違いなんぞではなく、明らかに悪意を持った言い掛かりだったから心底ムカついたのだ・・・オレはあんなコメツキバッタとは違い、デパートの店員という以前に人としてのプライドがあるのだ」
「そういうのを我慢しないといけないのが、客商売というものなのだ・・・」
「だから客商売などは、もう金輪際願い下げだと言っている。
オレも色々と言いたい事はあるけど、今更こんなところで終わった事をグダグダ言ってみても、始まらない・・・」
「だからこそ、こうして話をしているんじゃないのか?
だからこそ、オマエはこれからどうするつもりなんだと、オレは訊いたのだ」
「だからこれからの事は、社長には関係がないって・・・」
「本当に関係ないのか!
じゃあここで、ハイ、サヨナラでいいのか?
バイト料支払いの話だってまだ全然済んでないのに、本当にそれでいいと思っているのか?」
「ああ・・・そんなのどうだっていい。
くれてやらあ!」
「わかった、帰れ!」
と、オーナーが怒鳴った。
今や目の上のたんこぶのような存在であるはずのこちらが帰れば、オーナーとしては清々するようなものだが、どういうわけかこの人物にしては珍しく、なにかに苛立っていた。
「バイト料なんて、オレは要らん。
オレは、なんも悪い事はしていない・・・それは自信を持って言い切れる。
だけど、結果的には迷惑をかけたかもしれない。
いくら金に不自由していようと、そんなハシタ金などで自分の気持ちを売りたくはないくらいの矜持は、オレにだってあるのだ・・・」
実際のところ金には常には不自由していたから、どんな端金であろうと転職活動の軍資金として喉から手が出るほど欲しいところだったが、ここまで来ると最早、意地のみであった。
「ああ・・・確かに、大きな迷惑が掛かったよ。
しかしオマエは、何も悪い事はしてないんだよな?
だったら何故、オマエが辞めるんだ?
なぜそうやって、中途半端で投げ出そうとするんだ?」
「中途半端で投げ出すもなにも・・・今更、あの分からず屋のフロマネなんぞに謝る気は、死んでもないからね。
オレの方が不当な言い掛かりで、辞めさせられたようなものさ・・・」
「そうだな・・・あの客に対してはオレが謝ったし、この上オマエが謝る必要はないな。
しかしだ・・・オレの店は、別にここだけではない・・・」
一旦、言葉を切ると、冷静な声に戻って続けた。
「今回は、おかしなことになったが・・・まあ、こういうのは客商売にはつきもので、言ってみれば交通事故のようなものだ、とオレは思っている。
前にも言ったと思うが、オマエには確かに見どころがある。
だからこそ、こうして話をしている・・・と、オレは思っていたんだがな」
心が揺れなかったと言えば嘘になる。
短い付き合いにも関わらず自分の事を理解し、これまで口にこそ出さなかったがこれだけ信用してくれていたのか、という嬉しさがあった。
が、最早ここまで来ては、引っ込みがつかない。
「そこまで社長に信用して貰えてよかった・・・いや、素直に感謝します。
だけどやっぱり、ちゃんとケジメはつけたい・・・」
「うむ・・・オレは、嫌がる人間を引き止めはしないし、ケジメをつけるのも大事なことだ。
ただ、世の中には色んな人間がいるからな・・・接客業では、こんな事は決して珍しくはないんだ。
こんな事で嫌気がさして辞めていたら、どこへ行っても長続きはしないしやって行かれんぞ。
まあ接客業が嫌になったと言うなら、それはそれでどうしようもないことだがな・・・それにオレの気持ちとして、少なくとも今日までやってもらった分の支払いだけは、キッチリとしておきたい・・・」
という社長の声を背にしながら
「じゃあ、それは迷惑料としといてください。
では、さようなら・・・」
(またオレは、バカをやっているのか?
いや・・・これでいいのだ・・・)
と迷いを振り払うと、再度クラウンのドアを開けた・・・
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