前作『さまよえるオランダ人』の持つ番号形式を本作ではこれを脱却し、またワーグナー自身の言う「移行の技法」が随所に巧みに用いられていることが特徴である。
舞台は13世紀初頭、テューリンゲンのヴァルトブルク城。『タンホイザー』が着想されたのは1842年(29歳)に遡る。当時ワーグナーは同年の4月にパリからドイツへ帰郷しており、ドイツのドレスデンで『リエンツィ』と『さまよえるオランダ人』の上演の機会を探していたが、この時期からすでに『タンホイザー』の散文の草稿を着手していたとされる。
1842年6月にワーグナーは場所を移して、ボヘミアの山岳地帯のアウシヒ(現在のウスティ・ナド・ラーベン)にて散文の草稿を仕上げる作業を6月28日から7月6日にかけて行い、宮廷歌劇場の指揮者としての仕事もあったため一時中断をしたが、翌1843年5月22日に散文の草稿を韻文化した。また韻文化した草稿に音楽を付加するための小スケッチ類を多く書いたのち、夏にテプリツェに場所を移して1843年初秋に作曲に着手した。
第1幕は11月にテプリツェで、第2幕は翌1844年10月15日にドレスデンで、第3幕は12月29日に、序曲は1845年1月11日にそれぞれ作曲を終わらせ、4月13日に全体の総譜を完成させた。なお当初『ヴェーヌスベルク』という仮題をつけていたが、知り合いの医師からの助言で現在のタイトルに改題している。
中世のドイツでは、吟遊詩人として歌う習慣が騎士たちの中でもあった。騎士の1人であるタンホイザーは、テューリンゲンの領主の親族にあたるエリーザベトと清き愛で結ばれていたが、ふとしたことから官能の愛を望むようになり、愛欲の女神ヴェーヌスが棲んでいるという異界ヴェーヌスベルクに赴き、そこで肉欲の世界に溺れていた。
第1幕
ヴェーヌスベルクで快楽の日々を送っていたタンホイザーだったが、ある時夢の中で故郷を思い出し、ヴェーヌスベルクから離れようと決心する。ヴェーヌスは彼を引き止めようと誘惑するが、タンホイザーは強い意志によってそれを退けヴェーヌスベルクを消滅させる。
異界から脱出したタンホイザーは、ヴァルトブルク城近くの谷に放り出される。そこに領主のヘルマンや親友のヴォルフラムらが通りかかる。ヴォルフラムもまた、ヴァルトブルク城の騎士である。
領主やヴォルフラムは、出奔していたタンホイザーが帰って来たことを喜び、再びヴァルトブルク城に戻るよう勧めるが、官能の世界に溺れた罪の重さを思ったタンホイザーは、それを拒否する。しかしヴォルフラムは、エリーザベトが彼の帰りをずっと待っていると説得し、タンホイザーはヴァルトブルクに帰ることを受け入れる。
出典Wikipedia
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