「ステーキが食いたい!」
いつも通りのバカ話の中で出て来たセリフだったから、どういう経緯で出て来たのかは覚えていない。なにしろA女子の連中といえば「色気よりも食い気」の面々が揃っていたから、食べ物やキャンパス近くの安い飲食店の話はよく出てくる。そのような流れの中で出て来たセリフだった。
通常なら
「ああ、ステーキが食いてーわ・・・」
というケーコの叫び(?)に何人かが同調してすんなり終わるはずのとこだったが、偶々この時はあのマサムネが居たから、あれよあれよの間に話が急発展した。
「ステーキやったら、200gで990円の店知っとるで」
というマサムネの一言に飛びついたのは、いうまでもなく食いしん坊のケーコだ。
「200g、990円ちゅーたら、メッチャ安うない?」
「安いっちゅーでも不味かったらアカンが、味はどーなん?」
というリナの突っ込みはもっともだった。
「それやがな・・・なんぼ安いちゅーたかて、んな不味いもんやったらオレもわざわざ教えんて。まあ、安い割にはそこそこ行けるっちゅーてもえーかな」
と、マサムネ。
「いっつも金欠のオマエが、いつの間にステーキハウスなんぞ開拓しよったんや? また誰かにたかったんかい?」(ホソノ)
「オイオイ、人聞き悪いこといーなや!
そうそう人様にたかっとるかいな・・・」
と、マサムネは顔をしかめた。
マサムネと言えば長身でスタイルも抜群のイケメンであり、また詐欺師並みの話術にも長けていたことは周知のとおりだ。だから誰もが敬遠しがちなケーコやヒロミなど、A女子のウルサ型にもそつなく対応し、であるから彼女らの受けも他の誰とも比較にならないくらい抜群に良かった。
そのマサムネの推奨とあれば、A女子どもがその気になるまいことか!
「オッシャー!
んじゃ、今から行こかい!」
と、ケーコが叫んだ。
「オイオイ、今からかい?」
「丁度、昼時やし、えーやろ!」
と、最も乗り気のケーコの決断は早かった。
「あの店はやな・・・店主がおもろいおっちゃんでな。学生割引とかしてくれるんやった。確か女子だけやったが、ポンドステーキを完食したら半額とかゆーのがあった思うが・・・まあ、女子でポンドステーキ食うのはおらへんから、宣伝半分でゆーとるだけやろうが・・・」
「なぬ?
ポンドステーキ食うたら半額やて?
オッシャー、やったろやないか!」
はもちろん「大魔神」ケーコだ。
「オイオイ、オマエ、ポンドちゅーたら何グラムかわかっとんのかい?」
「知るかい!
何グラムやねん?」
「ポンドっちゅーと、何グラムやったっけ?」
「確か400とか450とか、そんなもんやろ・・・」
「ちゅーことはや、まあフツーサイズのステーキを2枚食べれたらえーんやろ!
まあそんくらいは軽いて・・・」
と、驚いたことにケーコは自信たっぷりだ。
こんな思わぬ成り行きから、早速マサムネの案内でステーキハウスへと赴くこととなった。
貧乏学生の身として、普段からステーキなどに縁のあろうはずはなかったが、まあたまには栄養を付けるのもいいのではいう気持ちに加え、はたしてあの「大魔神」ケーコが本当にポンドステーキを平らげることができるか? という悪趣味な興味も加わって、珍しく奮発することにしたのである。当然ながら、ホソノとマサトも似たような懐事情と思われた。
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