「前回、1年ではなく半年単位での契約が可能であれば、再契約に同意しますと言いましたが、あの件はどうなりました?」
「ああ、あれね・・・やはり半年はダメで、1年単位にしてくれという事で・・・ ただし、決して一年間拘束というわけではなく、あくまで名目だけであって万一途中で辞めたくなったとか、逆に向こうからもう辞めてくれという可能性も含めて、必ずしも1年という期間に拘束されるものではないですよ。
ただし、にゃべさんも入る時の経験からご存知の通りで、入場が決まってから稟議稟議で最低でも手続きに三ヶ月は掛かるそうなので、辞めたいという意思表示をしてから最低でも三ヶ月は、我慢して貰わないかん事になりますが・・・
それに加えて、その時点でにゃべさんと同等レベルの後任が居れば問題ないですが、そのレベルの人間がおいそれと見つからない場合は、人選だけでもさらに数ヶ月は掛かる可能性がある事もお解かりですよね?」
実際に構築当初から携わって来て、今や唯一の生き残りメンバーとなった技術リーダーのN氏などは、3年が経過した時点で本人が会社に帰りたい希望を出し、会社も引き上げの要望を出しながらさらに2年近くが経過しているにも関わらず、氏に代わる(同等レベルの)人物が見つからないためずっと引き止められたまま、という例もあった。
無論、ワタクシの場合は、リーダーのN氏ほどトータルスキルは高くないし、いよいよ辞める気になったら、どんな手を使っても辞める腹積もりではあったが・・・
ともあれそうした紆余曲折がありながら、再契約に調印する事になった。
「さて・・・それで金銭的なお話ですが、当初お約束した通りで現状のまま据え置くつもりはないです。そこで、ここはズバリ・・・にゃべさんの希望金額を単刀直入にお聞かせ願えませんでしょうか?」
「うーむ・・・難しいところですねー・・・」
当初から、再契約の際には幾らかの昇給がありそうなニュアンスを打ち出していただけに、どの程度上げて貰おうかと考えていたものの、これが仲々難しかった。
「私としては、もうこの場で決めてしまいたいので、ズバリ率直な希望を仰っていただければ・・・」
「ウムム・・・難しいところだな・・・どの程度で考えているかにもよるけど・・・」
「まあ、なんたってまだ一年だから、いきなり10万上げろとか言われたら難しいけど、2万とか3万くらいであれば余裕はあるので、この場で決めてしまいますよ」
元々
(どうせ上がるといっても、大した金額ではないだろう)
という思いがあったのと、この一年でまだそれほど大した仕事をして来てないという自覚があったから、訊いた瞬間に
(ほー、そのくらいは上げて貰えるのか・・・)
と思ってしまい、咄嗟に
「そのくらいなら充分じゃないですか・・・ならばちょうどキリのいい数字にもなるし、2万でもいいか・・・」
「それで良いですか?
では、それで決定にしましょう」
と、至極呆気なく決まった。
打ち合わせ中は内心の嬉しさを押し隠し、A氏と別れた直後に
(大した事もやってないのに2万も上がるとは、こりゃオイシイわ)
と、自然と笑いが込み上げて来た。
ところが時間が経つにつれ
(相手は『2万とか3万くらいであれば・・・』と言っていたのだから、3万、いや5万以上は吹っかけておいた方が良かったな・・・)
と、次第に欲が頭を擡げて来て
(今までの実績から、あまり吹っかけるのも良くないかと思い、即座に「2万」と言ってしまったが、これからしばらくは据え置きだし、この先何が起こるかわからん事を考えるなら「3万」と言っておくべきだった・・・いや、どうせ今辞めると言われたら向こうは困るのだから、もう少し吹っかけてやっても良かったんじゃないか・・・あの様子では客観的な評価は、案外と高いかのもしれん。クソ、早まった事をした)
と後悔に魘され、寝付けない夜を過ごすハメに・・・
週が空けて職場の喫煙所で、親しい24歳のK君と顔を合わせると
「打ち合わせはどうでした?」
と、早速訊いて来たので
「実に早まった事をした。訊いた瞬間に2万も上げて貰えるなら良いじゃん、と思ってしまったからなー。 しかし冷静に考えれば『2万か3万くらいなら』と言っていたのだから、これまでの実績はともかく、これからの含みを考えて3万とか5万以上と言えば良かった、と後悔して夜も眠れなかったよ・・・」
と「例の話」を開陳したところ
「それは絶対、損だなー。昇給は羨ましいけど、まったく勿体ない事をしましたね。ボクなら即座に『3万!』と言うだろーなー。てかボクは、にゃべさんなら最初から『10万くらい上げろ』とか言う人だと思ってましたけど・・・」
と言われ、トンデモナイ勘違いをされているわと爆笑したのだったが。
ところが、この数日後。知り合いに会った際、同じ話を聞かせると
「なんて勿体無い。何で『3万』と言わなかったのー?
つーか私はにゃべさんなら、てっきり最初から『10万』とか吹っかけていくものだと思っていたよ・・・」
と、まるで判で捺したように、同じ事を言われてしまった。どうやら他人の目には現実とは違い、かなり非常識な欲張りに映っているらしい。
「しかしあの感じだと、本気で吹っかけてやったら5万くらいは上がってた気がするな・・・」
「そうでしょ・・・上がったって、絶対に。3万まではその場で決められるっていうその言い方からして、まだかなり余裕があるハズだよ・・・今辞められたら困るでしょうから、5万とか多少無理を言ってもNと交渉出来るはずだし、多分それでも通ったでしょうね・・・勿体ないなー」
(ウウム・・・こんな事ならやはり、最初から10万はともかく5万くらいは吹っかけておけば良かったか・・・)
と己の淡白さに、3日間くらいは思い出す度に腹立たしい思いをしたものだった (ノ_-;)ハア
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