2004/11/14

「ファンタジスタ」の悪夢


 サッカー界のスーパースター、ロベルト・バッジオ(以下R.バッジオ)選手が引退を表明しました。

.バッジオと訊いて印象深いのが、なんといっても94年のW杯アメリカ大会です。この大会で、R.バッジオはブラジルのロマーリオらと並ぶスーパースターとして脚光を集めると同時に「イタリアのイケメンエース」としても大変な注目を集めており「ファンタジスタ」(イタリア語で「夢を与える人物」という意味で使われる)と称される幻想味溢れるアイディアと、スマートなイタリアの色男とに想像を膨らませ大いに胸を躍らせていたものです。

予選リーグで各チームのエースが着々と得点を重ねていく中、いよいよ注目の「ファンタジスタ」が登場して来ました。ところが期待に反して初めてTV画面で観たこの「ファンタジスタ」は、薄っすらと無精ヒゲを生やしているせいか正直どこか薄汚いような感じであり、加えて長身揃いのイタリアチームの中ですっかり埋没しているような背の低さからも一向に見栄えがせず

「は?
これのどこが色男かいな・・・」

と大いに失望したもので

「これなら、チームメイトのディノ・バッジオ(以下D.バッジオ)やマッサーロ辺りの方が、遥かにスラリとしたオトコマエじゃないか・・・」

と思えたものです。

とはいえサッカー選手なのだから、外見はともかくスーパーエースらしく、グランド狭しと八面六臂の大活躍を見せてくれるならば文句はないわけですが、ここでまたしても大きく期待を裏切られる事になろうとは・・・

なにしろ初戦のアイルランド戦から、この「ファンタジスタ」はまったくいいところがありません。小さい体とフィジカル面でのひ弱さばかりが目に付き「ファンタジスタ」としての面影はまったく欠片ほどにも見えない鈍い動きに終始します。エースの不振がそのまま20年ぶりの予選敗退(0ー1)という、まったくの予期せぬスタートに繋がってしまいました。

「今日は偶々調子が悪かったのかな・・・?」と誰しもが思った事でしょうが、予選2試合目になって信じられない事が起こりました。

序盤から相変わらず鈍い動きで、まったくいいところのなかったこの「ファンタジスタ」。業を煮やしたサッキ監督から、ナント前半20分そこそこという、まだゲーム開始間もないところでベンチに下げられてしまうという、スーパースターとしてはこれ以上ない大恥を掻かされてしまったのです。

初戦に思わぬ敗戦を喫し後がなくなったイタリアでしたが、皮肉な事にこの「ファンタジスタ」をベンチに下げたところからリズムが好転し、DFでありながら攻撃に参加してきたディノ・バッジオが虎の子のゴールを決めノルウェーに1-0で辛勝し、どうにか11敗としました。

 前にも記したように、このD.バッジオと言う選手が色男揃いのイタリアチームの中でもひときわスマートな長身の二枚目で、DFながら颯爽とした動きで攻撃にも参加するなど「不肖のファンタジスタ」を補って余りあるような頼もしい働きを見せてくれていました(同じ苗字の2人ですが、まったくの赤の他人です)

「D.バッジオいいじゃないか・・・モデルみたいにオトコマエだし。散々騒がれながら、まったくパッとしないコギタナイ誰かとは雲泥の差だなー」

とTVの前でワタクシもボロクソに毒づいていた事は、言うまでもありません。

そうしてD.バッジオの素晴らしい活躍があったとはいえ、肝心要の「ファンタジスタ」がクソの役にも立たないイタリアは相変わらず大苦戦が続き、予選敗退の悪夢がちらついて来た最後の3戦目は、強敵のメキシコが相手です。

「今日こそ、ファンタジスタらしいところを見せてくれるのかいな?」

という淡い期待に反し、この試合でもやはりまったくいいところがない「ファンタジスタ」に足を引っ張られたイタリアは、当然の事ながらまたしても大苦戦を強いられる事になります。ここまで2試合で1点しか取れない原因は、一にかかって大エースと言われた「ファンタジスタ」のだらしないテイタラクに付き、サッキ監督は控えのマッサーロという頭を五分刈りにしたベテランの選手を投入しました。

このスラリとした長身でオトコマエのマッサーロが、思いのほかいい働きを見せた。

「ファンタジスタなんぞよりは、こっちの選手の方がよっぽどいいじゃないか。最初から、この選手を出しとけば良かったのに・・・」

結局この試合は1-1の引き分けに終わり、グループ4チーム中3位という醜態であわや予選落ちかと懸念されたイタリアでしたが、他グループで思わぬ番狂わせがあったのに救われる形で「ラッキールーザー(幸運な敗け犬)」として、なんとかギリギリのところで拾われ、冷や汗を掻きながらも決勝トーナメントに進出を決める事になります。

このゲームを観た、ユヴェントスのオーナーであるジャンニ・アリエリ氏から「びしょ濡れのうさぎのようだ」と酷評されたのは、誰あろう「ファンタジスタ」でした。

決勝トーナメントでは1回戦で、いきなり「アフリカのライオン」と称された強豪のナイジェリアと当たる事になり「1回戦屈指の好カード」と言われました。

以前も書いたように、ちょうどこの年は関西旅行をしていた時に当たり、ホテル予約センターで紹介を受けたホテルが思いのほか豪華で、BS内臓の大画面パノラマテレビが据え付けてあり、ちょうど深夜にこのイタリアvsナイジェリア戦を生中継していました。

予選リーグでの勢いそのままに、序盤から「アフリカのライオン」と言われたナイジェリアの一方的なペースで試合は進み、例によって動きの鈍い「ファンタジスタ」は一向に機能しないままに、無常にも時計は針を刻んでいきます。

0 件のコメント:

コメントを投稿