「もろこ」こと香といえば、言わずと知れた初恋のお相手だ。
記憶もおぼろげな小学1年生の年、なんの出し物だったか学芸会で王子様を演じたにゃべの相手を務めたお姫様は、この香だったはずである。となると、2人の最初の出会いは実に10年以上も前の6歳の時という事になるが、残念な事に(或いは、当然にというべきか)この辺りの記憶は、きれいサッパリとなくなってしまっていた。
小学1年の時は美少年のマサと、ムラカミという図抜けた少年にばかり目が行っただけに、記憶にある香は小学3年の年からとなる。当時から、群を抜いて可愛らしかった香に、にゃべが生まれて初めての幼い恋心に胸を焦がした記憶は、微かに残っていた。
やがて小学校も高学年になっていくにつれ、優等生の2人は一緒にクラス委員長や生徒会代表などを務めながら、あたかも天の配剤ででもあるかのように接触の機会が増していった。が、あくまでもクールな態度を崩さない香に対しては、さすがのヒョウキン者にゃべも調子が狂いっ放しのまま、あっけなく小学校生活にピリオドが打たれた。
小学生時代は、最後まで不動のトップに鎮座ましましていた、にゃべの後塵を拝するに甘んじていた香だったが、中学進級とともに勉強嫌いのにゃべの学力が低下してくるにつれ、2人の差はジワジワと縮んでいった。
中学生となり、香の美しさは依然として輝いて見えたものの、そういった美少女や優等生にありがちな派手な言動を極力避けているかとも思えるほど、相変わらず地味な振る舞いに終始していたのが、この香である。
にゃべ同様、中学をトップクラスの優秀な成績で修えた香は、『A高』入学後一年はまったく接点がなかっただけに、2年ぶりのご対面と相成ったわけである。
高校では、男子生徒の人気は的は茜や淳子だった。性格的にも活発で陽気な社交家であった茜や、上品なお嬢様タイプの淳子、或いは高校生離れした子悪魔的な色気と華やかな存在感を纏っていた千春ら、それぞれに見られる強い個性に比べ、いかにも地味すぎる香の性質は一向に目立つところがなかった。
元来が無口で、何を考えているのか良くわからないようなところがあっただけに、これまでに浮いた噂の一つも聞こえてこなかったのは当然と言えた。しかしながら小学1年から12年間に渡り、親友として付き合い続けてきたムラカミ同様に、小1から同じクラスでここまで10年以上に渡る学生生活に、大きな影響を与え続けて来た「もろこ」こと香の存在は、やはり絶大と言えた。
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