2004/11/12

スキル要件(Gシリーズ第1章)part2

 「にゃべさんは、英語は得意なの?」

「いや、あんまり得意でもないですな・・・」

「うーん、そりゃちょっと厳しいぞー・・・じゃあ、今までサーバのエラーメッセージなんかには、どう対処して来たわけ?」

「まあ、あの程度のものなら、まず問題ないと思うけど・・・」

「そうかー。一応言っておくと、あの部屋のメンバーは、RFCなどはフツーに原文で読んでる人たちばかりだからね。(リーダー)のNさんの書くマニュアルは基本的に全部英語だし(後に、総てが大嘘だった事が判明する)、元々コンピューター関係の標準文書なんかは総て英語だから、ここでの仕事をやって行くとなると、あれらを自分で翻訳できるくらいでないとキツイだろーな・・・」

まったく寝耳に水の話だ。そもそもこの案件に関しては、当初から大きなボタンの掛け違いがあったのだ。N系列のNX社から訊いていたスキル要件は、以下のような簡単な話だった。

Must
Windowsunixの違いを理解し、それぞれ説明が出来る
unixの基本的な仕組みを理解、コマンド操作が出来る
viなどのエディタ操作を使いこなせる
・シェルの概念を理解し、簡単なチューニングが出来る
Windows2000、NTサーバの仕組みを理解し管理が出来る
TCP/IPについての知識があり、ネットワークのトラブルシューティングで実務をこなせる

と言ったもので、どれも大して問題ないものばかりである。その上に「あった方が良いスキル」として、次のような要件が挙げられた。

Want
・シェルのプログラミングが出来る
SolarisLinuxの構築経験がある、または自宅でサーバを立てている
Windows2003サーバーの管理経験がある
・インフラの構築やネットワーク機器(ルータ・スイッチ等)の初期設定が出来る、または、それらについて(特にcisco機器)の知識が充分にある
・ネットワークのトラブルシューティング経験がある
・ベンダーとの折衝能力、または経験がある
・自前のサーバで自分のHPを創った事がある(htmlタグ必須)
・データベースの構築、または管理経験がある
SQL文を理解し、プログラミングが出来る
・電子政府(PKI)に関する最低限の知識がある
・セキュリティに関する意識、及び知識が豊富である
・未知の分野を開拓していく意欲と能力を備えている

といったところで

「これらはあくまで、あった方が良いという話だから・・・こんなの全部出来る人なんているわけないし、これから少しずつでも覚えていこうという意欲さえあれば、問題はないですよ。必須スキルさえ備わっていれば大丈夫」

などと、担当部長には至極あっさりとかわされてしまった経緯があった。

ところが前に触れたような、化け物並みのスキルを備えたM氏の目からすれば、このNX社の提示した要件に不満タラタラだったらしい。

Mustのところは当然の前提として、Wantの中で本当に『あった方が良い』レベルは「Windows2003サーバーの管理経験とインフラの構築やネットワーク機器(ルータ・スイッチ等)の初期設定が出来る)」、「自前のサーバで自分のHPを創った事がある」、「データベースの構築または管理経験」くらいだな。あとは必須スキルだ。特に「SolarisLinuxの構築経験がある、または自宅でサーバを立てている」は、今からでも直ぐにやるべきだ。一番重要な「ネットワークのトラブルシューティング経験とセキュリティの知識、その他の対応能力」の方は得意分野らしいが「電子政府に関する最低限の知識」の方がまったく勉強して来てないのは致命的だな。あと、PFCくらいは最低でも読んでおいて欲しかったな、原文でな。」

NX社の要件書には「PKIに関する知識は、最初はなくても構いません・・・入ってから理解していただきます」という話だったが上位会社のN社のそれは、本人の知らぬ間に「出向前にPKIに関する講習を受けていただき、最低限の知識が備わっている事が前提」という話に摩り替わっていた。

「この要件書はオレが叩き台を出したものだけど、Mustの方がかなりWantの方に置き換えられているな。しかもPKIに関する知識については、あれほどオレが口を酸っぱくして言っておいたのに信じ難い」

 などと、オーバーにに頭を抱えてみせるのである。

 実際、出向前のS社での待機期間は非常に暇だっただけに、勉強しようと思えばかなり出来たわけだったが、前にも記述したように肝心のNX社からは仕事の内容はおろか、勤務地までまったく明かされる事がなく

「とにかく(当日に)行けば、場所も内容も総てわかるから・・・」

の一点張りだったし、また面接で出て来たN社の部長に詳しい業務内容を訊いた時も

「私も、あまり詳しい事は訊かされてなくてね・・・まあいずれにしろ、そんなに大した内容じゃないから・・・」

の一言で片付けられてしまったのだったから、今更あれこれ言われてもどうにもならないのである。

「そういう事っだったか・・・まあ、今更言っても始まらないが、間違いなくこれから苦労する事になるのは、にゃべさんだからねー。こうなってくると、オレはにゃべさんが不憫だよ・・・」

と半ば呆れ気味に、匙を投げたような口調であった。

「ひょっとしてにゃべさんは、ここの現場のHPすら観た事ないわけ?」

「だから、そもそも名前すら教えて貰えなかったから・・・」

「マジかー。参った参った、こりゃ本当にどうにもならんな」

「何も教えて貰えなかったんだから、探しようもないし・・・」

「だとしても結局、困るのはにゃべさん自身なんだからな。じゃあ、今日帰ってからでも、読んでおいて欲しいよ。あのHPも、オレがゼロから創ったんだからさ・・・」

どうもこのM氏という人物は、人を脅して反応を楽しんでいるような悪趣味なところが見られた。構築時からの中心メンバーとしてN氏(技術リーダー)とともに生き残り、今も中心的な役割を果たしているという自負が強いのか

「オレの代わりなら、こういう事もやらないといけないんだぞ」

というセリフを得意にしていたのは

(そう簡単に、オレの代わりなど勤まってたまるか)

といったような技術者としての誇りと、強烈な自負心の表れだったのだろう。

0 件のコメント:

コメントを投稿