2004/11/14

風雲急(Gシリーズ第1章)part4

 「毎月、各省庁の役人やベンダーが作業で来る事になっててね。それの監督をしないといけないが、サーバ室は寒いからジャンバーとかコートを用意しておいた方がいいぞ・・・なにしろサーバ室の温度は8℃で、風速20メートルの風が吹いているんだ。今のその格好で入ったらまず3日で風邪を引くし、最悪肺炎だな・・・しかも、省庁の作業に関してはこちらは立ち会うだけで一切タッチしてないから、向こうが作業でトラブった時などは、夜中までずっと監督していないといけないなんて事もあるからね。最悪は午前中に始まって、夜中の2時とか3時までやっていた事もあったよ」

などと、ロクデモないことばかり言い続けるのである。

ここに至って日頃は温厚な(?)にゃべも、遂にブチキレた。

偶々、所属会社から掛かってきた電話で、つまらぬ事から代表のA氏と言い争いになり

「もうあんなインチキ臭くて、わけのわからん現場は嫌気がさした」

と、伝えてしまった。

所属会社のA代表は、以前にも何度か触れて来たように一癖も二癖もあるイヤミな人物だったが、このことから口論となり、話が一気にややこしい事になった。

本来ならば所属元として、技術者をフォローすべき立場であるはずのA氏はさっさと責任を放棄し、上位会社であるN某社の部長に投げてしまったから、さらに面倒な事態に。

翌朝、珍しく遅刻して来たと思ったM氏が、大雨の中、濡れ鼠になりながら10時過ぎにやって来ると

「昨夜のにゃべさんの電話を受けて、今朝9時にオレが部長に呼ばれて話し合いをして来たんだな。その結果は・・・明日の朝9時にN某社で、にゃべさんと所属会社の代表(A氏)とやらの偉い人と、部長が話し合いをするんだとさ。

この件はHさんからオレに一任されたけど、まあ結論から言えばにゃべさんの申し入れは100%無理だね。もうお役所の方も承認している段階だから、今更覆すのは無理で、最低でも1年はやって欲しいところだが、ともかく3ヶ月までは様子を見ながら頑張って欲しい、というのがHさんの話だったね・・・」

 「まあ、ここでゴチャゴチャ言い合ってもしょうがないから、ともかく明日話して来ますよ・・・」

という事で、翌日の話し合いとなった。

いつも通り、あくまで強気の姿勢を崩す事のないA氏は

「そもそも、この件はこちらからお願いしますという話ではなく、あくまで向こうからお願いしますという契約なのです。だから極端な話、仮ににゃべさんが(M氏が言うような期待通りの)仕事が出来ないからと言っても、契約上では向こうからクビには出来ないのです。

もし万が一にもそうなったら、現場でちゃんと教育をしなかった相手側に責任があるのだからこっちが賠償を請求するくらいで、なにもにゃべさんが気に病む事はまったくないのですよ。

ただしそうでなく、単純ににゃべさんが嫌だから辞めるという話であれば、逆に当社ではなくにゃべさんがN某社やN社から賠償を請求される事になるかもしれませんな。しかし当然の事ながら、その時はウチの方では一切の面倒は見ることができませんがね・・・」

などと事前の電話では、一方的に捲くし立てていた。

そしてN某社の部長と、A氏を交えての三者の話し合いとなった(といってもA氏は同席しているだけで、終始無言のまま相手の話を聞いているだけだったが)

「そもそも事前に訊いていた必要スキルと、実際の要求とにギャップがあり過ぎますよ」

というと

「それは考え過ぎだよ・・・前にも言ったように、当初からそんなに高いレベルを求められているわけじゃないんだ・・・Mが色々と難しい事を言っていたようだけど、昨日彼からヒアリングしたところでは『あれは、あくまで理想を言ったまでだ』と言う事だったよ。

そりゃ、まあ彼は導入時からの構築メンバーだし、PKIの知識が凄いと言っても今の現場にはもう3年半もいるんだから当然の事で、それを入ったばかりのにゃべさんに要求するのは無理な話さ。その辺りのところは誰もがわかっている事であり、彼は口が悪いから脅しのように聞えるのは仕方がないけど、あれはあくまでもだな早くそうなって欲しいという希望だから、話半分で訊いてればいいんだ。

実際には、にゃべさんのスキルで充分大丈夫なはずだし、その辺りは面接でN社もゴーサインを出しているわけだから、自信を持ってこれから頑張って色々と吸収してくれればいいんだよ・・・」

さらに続けて

「にゃべさんもご存知の通り、この話が決まってから実際に入場になるまでは実質三ヵ月以上の時間が掛かっている。それだけウチやNだけでなく、役所なんかでも沢山の関係者が係わって稟議書とかの書類を盥回しにされてね・・・だから仮に今、にゃべさんが辞めるといってもそう簡単な話ではないし、また別の人間を探して後釜が決まったとしても、同様に三ヵ月以上は掛かるわけだから、どっちにしてもそれまでの交代要員が正式に入場となるまでの半年くらいの間は、にゃべさんが現場にいなければならないんだよ」

さらに、部長はここで身を乗り出すと

「ましてやその期間で、にゃべさんと同じレベルの人間が見つかるという保証もないから、その場合は見つかるまでは辞められない・・・しかも、針の筵のような状態でね。そんな事ならこの際、騙されたと思って前向きな気持ちで頑張ってみた方がいいんじゃないかな?

折角、関係者が期待して動いてここまで来たわけだし、これから半年くらいは大変だろうけどそこをどうにか頑張れば、バリバリと出来るようになるかもしれない。にゃべさんの実力なら、案外遣り甲斐が出てくるんじゃないかと、当初から私は期待していてね」

部長の説得力はさすがだったが、自分としては少し考えが違った。

とはいえ確かに現実には様々なしがらみがあり、遠く離れた名古屋からも例のT氏からバシバシと電話が入って泣きつかれるなど、思った以上に雁字搦めにされているのが再確認できたため、ここは一旦矛を収めるしかなかった。

0 件のコメント:

コメントを投稿