2004/11/15

血筋(高校生図鑑part12)

 天才マザーと御曹司タカミネ。さらにカトーを含めた「御三家」といった並み居る才能をブチ破り、見事ノーマークの中でトップを掻っ攫っていったエリとは、そもそもどんな学生なのか。

エリの実家は、病院である。この年の『A高』生の中には、医者、歯医者の息子・娘が併せて10人ほどいたが『A高』の地元A市の中心部という立地にあったエリ実家の病院は、地元で三代続く形成外科として知られていた。内科や歯科などとは違い、形成外科となると数は少ないだけに、学区の違うにゃべらのB学区でも、その名はよく知られていた。エリの父親が三代目ということは、エリの曾爺さんが初代であり、開業は明治時代の19世紀に遡るという歴史がある。

エリの父親は学区トップの『A高』を卒業すると、東京医科歯科大の医学部に入学した。当然ながら、医学生・見習い期間の約10年を東京で過ごしたのだが、なにせ三代目のボンボンだけに多分に漏れぬ遊び人だったらしく、潤沢な仕送りをいいことに見分不相応な銀座通いが嵩じ、遂にホステスに入れ揚げた。

挙句に

「あんな水商売の女なんて、病院の品位に関わることだ。ふざけるな!」

という一族の反対を押し切り、強引に結婚まで持って行った「ツワモノ」として有名になった。そして修行を終えて実家に帰る時には、既に一男一女の子連れであった。言うまでもなく「一女」はエリであり、その上に長男が居た。したがって「現院長夫人」のルーツは「元銀座ホステス」である。

地元では

「世間知らずの医者のボンボンが、銀座女の手練手管に引っかかったんだろう!」

などと揶揄されたらしい。

「銀座ホステス風情に『院長婦人』が務まるのか?」

という外野の好奇の目をよそに、さすがの美貌と社交上手の才能を発揮し、気付けばすっかり要領良く『院長婦人』に納まったのがエリ母であった。とはいえ、さすがに「血は争えない」と言うべきか、銀座ホステス上がりだけに万事に派手好みであり、また見栄の塊のような母の性質は筋金入りだ。長男はそっちのけで一人娘のエリを溺愛し、幼い頃からブランド物で着飾らせていたらしい。

そんな母の血を色濃く受継いだか、はたまた蝶よ花よと甘やかされてきたせいか、大変に気が強く「世界は自分を中心に回っている」と信じ込む一個の人格が完成した!

残念ながら、器量の方は「銀座の売れっ子」で鳴らした母の美貌はまったく受け継げずに、不幸にもオヤジに似てしまったか、どう見ても十人並み以下、というよりは腕白坊主のような色黒童顔のエリであった ( ´艸`)ムププ

 とはいえ、さすがは幼い頃から充分に金をかけて育てられて来ていただけに、ブランドなどの着こなしや身に付け方は板についていたが、男子を虐めて歓んでいるような下品な言動の数々に

「やっぱりアイツは所詮、銀座ホステスの娘!」

などと蔭口を叩かれることも多かった。一部では「ヤブ」と悪評高かった院長、つまりエリの父親は

「先生のいいつけを守らないと、入院患者でも容赦なく病棟から叩き出される」

といわれるほど「コワモテ院長」として有名だったが、世間では「鬼の院長」もやはり娘の父親だった。客観的には美しいとは言い難い出来損ないとはいえ、或いはだからこそというべきか大事な「箱入り娘」にだけは、トコトン甘かった。

なにせ、上には「四代目跡継ぎ」の兄がいるという、自由人エリにとっては最高の養育環境に加え、子供とは思えぬ強かさで両親の「弱点」をすっかり見抜き、都合のいいように「利用」しながら狡猾さを磨いていく。このようにして、手の付けられないワガママに育ったエリは、小学生時代は男子に暴力も辞さず、虐めて泣かせるほどのお転婆ぶりから、皆の嫌われ者だった。

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