中学入学時には、見栄坊の母が嫌がる本人を説得し、ムリに名門『K学院中学』を受験させたものの、まだオチこぼれだった上に面接での態度の悪さがモロに露呈してしまい、あえなく「不合格」となった。
「天下のナカノ医院の一人娘が、こんな不出来では・・・」
と中学入学と同時に、鳴り物入りで名大生を家庭教師に迎える。ところが、そんな真面目学生が、ワガママなエリのオメガネには叶うわけもなく、破格の条件を提示されたバリバリの名大生も
(とても、手に負えぬ・・・)
と3日と持たずにホウホウの態で逃げ出してしまった、というエピソードが彼女の気の強さと扱いにくさを物語っている。
その後も2人、3人と代わる代わる名大生の家庭教師を迎えたものの、生まれついての「女王様」エリである。海千山千の教師ですら手を焼くほどのエリだから、そこいらの大学生風情に彼女のお相手は、虎やライオンの調教にも等しい。
3人目に抜擢された、体育会系の気の強い学生から
「これまで何人もの家庭教師がすぐに辞めていると聞いていましたが、確かにエリちゃんの相手では、相場の3倍のバイト料を弾んでもらっても誰もやり手がいないと思いますな・・・」
とまで言われた結果、銀座ホステス上がりの母親から
「すねかじりの坊やが、一丁前な口をきくんじゃないわ!」
と一喝されホウホウの体で逃げ帰ったが、遂に4人目の家庭教師を迎えエリもようやく心を入れ替えたか、はたまた偶々彼女の気に入るところがあったのか、ようやく真面目に勉強に取り組むようになった。
この家庭教師の成果か、オヤジ譲りの持って生まれた能力は極めて高かっただけに「本気になった」エリの成績は面白いように、ウナギ登りの上昇カーブを描いていったらしい。
こうして素行の悪さを差し引いても、なんとか『A高』推薦にまで漕ぎ着けたのである(父親がA市の有力者のため、裏工作が噂されもしたが)
余談ながら『A高』入学が決まった2月、4月から就職が決まっていた件の家庭教師の学生には、通常のバイト料とは別に特別ボーナスとしてバーバリーのスーツ仕立券が、院長夫人からプレゼントされたらしい。
同学のシゲオによれば『A中』時代のエリは、さすがに小学生の時のように男の生徒を虐めて泣かせるような狼藉は影を顰めたものの、今度は学校指定の鞄とは別個にブランド物のバッグを日替わりで持ち歩いて来ていたので有名だった。勿論、普通であれば厳罰ものだが、なにせ父であるナカノ院長はPTA顧問のみならずA市の名士だけに、うるさ型の教師らもこぞって見て見ぬ振りを決め込んでいた、という事だ。
『A高』でも同じように、腕時計などもロレックスやカルティエなど日替わりでハメ変えて来ていたが、さすがに教師からクレームがついた。
「オイ、ナカノ!
そんな高価な時計を、学校につけてくるんじゃない」
「えーっ?
だって、こういうのしかないんだもん。しゃーないじゃん」
「毎日違うのを嵌めてくるのも、よろしくない。基本的に我が校では自由は認められているが、オマエのは幾らなんでも学生の分際で派手すぎる!」
「だって、沢山あるんだし・・・使わな、勿体ないじゃん。それって、自分がないからって僻みなんじゃね?」
といった調子で、教師も煙に巻いて同級生の笑いを誘うような気の強さだから、なんと注意されようとまったく馬耳東風だった (´0ノ`*)オーホッホッホ
そうはいうものの、単に「金持ちのワガママ娘」で終らないところが、エリの真骨頂である。学区数市町から精鋭が集る『A高』において、1年通して一度もトップ10にすら入れなかったのだから、並みの学生ならトップを狙おうなどとは思うはずがない。ところが
「トップになったら、なんでも好きなものを買ってやるぞ!」
という半ばジョーク交じりのオヤジの激励に、遂に「本気」の発奮をした。新たに雇った名大生の家庭教師と二人三脚で「初めて本気出した」と嘯いたエリ。ということは、紛れもなく「トップ(ブランドのバッグ)を獲りに行った」のである。その結果が、見事に一発でルイ・ヴィトンをゲットしてみせたとあっては、単に「欲」だけでは片づけられない底力を物語っていた。
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