2005/01/16

神出鬼没のT氏(Gシリーズ)番外

 所属会社の代表A氏から、年末に

「久しぶりに是非、一度お目にかかりたい」

と電話での連絡があった事は以前に記したが、年末は忙しいという理由で突っぱねて

「年が明けて、落ち着いてからにしましょう」

と逃げを打ったまま、正月休みを過ごしていた。

(上手くすれば、お流れになるかな?)

と期待したものの、案に相違して改めて年明け早々に連絡が入った。

「年末にお話していた件ですが、ご都合はいかがでしょうか?」

ありがたくもない事に、しっかりと憶えていたのである。

「私の方から、そちらへ行きますので・・・」

という申し出だったので、相手の気が変わらないうちに日時を設定し、吉祥寺の駅で待ち合わせをする事にした。もっとも、ワタクシの方では仕事帰りに満員の中央線に乗って、神田くんだりまで出る気は毛頭なかったが。

「仕事帰りになるので、食事でもしながら話しましょう・・・私の方で一席設けますよ」

「いやー、とんでもない。にゃべさんにご馳走になろうとは、これっぽっちも思っていませんので。私の方で、一席設けますよ」

「いやいや、別にどうせ帰りには食事をする事になるんだから、一人も二人も大した違いはないし」

といった遣り取りの末に、設定した日は年明けという事もあったが11月に正式メンバーになってから、初めて定時に帰る事が出来た。

待ち合わせの19時半には時間が早かったので、念のためA氏に電話をして「早めに出られないか?」と急かしたものの

「全然考えてなかったので、約束通りの時間でお願いします」

との返事で仕方なく一旦帰宅し、着替えを済ませて出る事になった。

近くのコンビ二にドサクサで自転車を停めておき、吉祥寺駅へ行くと183cm100kgというA氏の外人並みの巨体は、吉祥寺の雑踏の中でも直ぐに眼に入った。

「マックでいいですか?」

「はぁ?
食事をするんじゃなかったんでしたっけ?」

「そのつもりでしたが、この後、別の打ち合わせが入ってしまったもので、アルコールはおろかあり腹を膨らますわけにもイカンのですわ・・・」

 若い時から、マックのような店には滅多に入った事のないワタクシは

「腹が空いてるのなら、大したものはないけどなにかご馳走しますが・・・」

と言われ

「いや、別に。コーヒーでいいよ」

と答えたにも関わらず、例のまずいハンバーガーを食わされる羽目に。

仕事に関しては、まだ正式メンバーになって二ヶ月だから大した事はやっておらず特に話すような事もなかったので、簡単に済ませて世間話になった。 

「そういえば、去年の末にTさんがこっちへ来ていたのは、ご存知でしたか?」

「え? そうだったんですか・・・」

A氏は一瞬、驚いた表情を浮かべた。

東京事業所代表のこのA氏とは、同じ歳だった。

「何でも、息子さんと一緒にTDLやTDSに行って来たらしくて、急に呼ばれてね・・・東京駅で会いましたが・・・」

「ほーほー」

「そういや

『オレと会った事は、Aさんには言わなくても良いからね』

とか言ってたけど、別に隠すような話もしてないし問題ないでしょう・・・」

「ははは・・・それは多分、探りに来てるんでしょうな。なんでも最近モノ入りらしくってね。例の紹介料の件で、ちょくちょく探りに来ているみたいですわ」

「紹介料って・・・例の?
あれ、まだ払ってなかったの?」

「実はね・・・それには、こんな事情があって・・・」

と、A氏の語るところでは・・・

以前にも書いた通り、この件についてはT氏が色々と骨を折った事もあって、当初はS社からT氏を経由して仕事が発注されるという手筈だったのが、それでは面倒だという事でワタクシがS社と話し合った結果、S社のA氏からT氏に

「にゃべさんが、うちと直でやる方が面倒がなくて良い(無論、S社にとっても)と言っております」

と話すと、案件自体が流れるのを危惧していたらしいT氏は

「だったら、それでもいいよ」

と意外にも即座に、二つ返事でOKしたとの事だった。

「その代わりにTさんには「紹介料」の名目で、毎月幾許かのお金をお支払いする事になりました。ですのでにゃべさんは一切、T氏の事はお気になさらないでも結構なんですよ・・・」

といった経緯があったらしい。

 「ところが研修期間中に、にゃべさんから嫌になったから辞める云々を匂わせるような発言があったでしょう・・・あれで本当に続くのかどうか、正直不安が強かったので本社と相談の結果、紹介料の件は凍結としておるんですわ。まあ、今の様子だとすっかり大丈夫そうだから、早急に何とかしなきゃいかんとは思ってますが・・・」

 必ずしも長く続けると決めたわけでもないし、先の事は皆目わからない。が、それを言うと、いつまでもT氏に紹介料が支払われなくなるので、うっかりとは口には出せなかった。

「それで、ちょくちょくと探りに来ているみたいですよ・・・にゃべさんと会ったってのも、その辺りの様子(うまくやっていそうかどうか)を探る目的もあったでしょう。あ・・・勿論、純粋に顔を見たいというのもあったんでしょうが・・・」

最後の方は、明らかに付け加えるような口振りだった。

(オッサン、それが狙いだったんかい・・・)

「ただ今の状態では、Tさんには義理を書いている事は重々認識しており、紹介料の件は早急に対処しますので、その点はご心配なく」

「ちなみに、それは顧問料とは別に支払われるものなんだっけ?
顧問料は、毎月払われてるんだよね?」

「は? 顧問料?

顧問料といっても・・・Tさんは、うちの顧問だったかいな・・・」

なんだか話がおかしい。T氏からは、確かに「S社の顧問だ」と聞いていたはずだった。

「確かウチの顧問は、違う名前の人だったなー。Tさんではないと思ったぞ・・・」

曲がりなりにも東京事業所の代表が自社の顧問を偽る道理はないから、どうやらT氏の言ったのがハッタリだったらしい。もっとも名古屋にある本社のS社長と親しいのは、最初に面接で同席してもらった時に見て良くは知っていたし、顔の広いT氏があちこちの会社の顧問に名を連ねている事自体は、厳然たる事実ではあったが・・・

「それにしても・・・そういう事情だったのか。こっちは中央線の殺人的な混雑の中を、わざわざ東京駅まで出向いたというのに・・・まあ、でもTさんが来るのは半年に一度とかだそうだから、偶に合うのもいいけど、裏を知ると複雑なもんですな・・・」


「いや・・・半年に一度とか、そんなもんじゃないですよ。特に最近は何でも家庭の事情で色々と物入りらしくて、かなり来てるんじゃないかな?
確か年末の最後の日だったかな・・・あの日も例によって突然、何の前触れもなくやって来たなー。その前にも来てたぞ、確か・・・その時はちょうど、私が留守の時に来てたんだったなー。あの人、何の前触れもなく突然来るのだけは、そろそろ止めて欲しいんだよなー」

「ああ、相変わらず私の時も、前日に電話が掛かって来てね。仕事で横浜にいる時だったけど・・・」

「前日なら、まだいいですよ・・・ウチなんかはいつも当日か、酷い時はいきなり会社にやって来たりね・・・せめて前日くらいには連絡寄越してくれんと、予定が立たないんだよなー」

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