2005/01/20

不義理(反乱シリーズpart4)

 不登校から数日が経ったところで、冬休みに突入した。

 

いよいよ「病気」を不審に思い始めた担任教師や学友から、何度か電話がかかって来ていたらしい。

 

「一体、私はどう返事をすればいいのよ?

まさか『バイトに行ってます』とは言えないし、そう毎日毎日病院に行ってるってのも変だしねー。ホントに困ったコだわ、アンタってコは・・・とにかく、おとーさんは放っておけと煩いし、私だってもう面倒見切れないわ。今後は、自分の責任で対処なさい」

 

再三の電話攻勢に、遂に痺れを切らした母が「夜なら出られます」と伝えた事で夜に電話があり、バイトの休日に担任の訪問となった。

 

「よう、にゃべ!

案外、元気そうじゃねーか!」

 

「はあ・・・」

 

「どこが悪いんだ?

おふくろさんの話ではイマイチ良くわからなかったが、病院ではなんて言ってんだ?」

 

「・・・」

 

「なあ、にゃべよ。ざっくばらんに行こうや・・・オレだって心配して、こうして来てるわけで決して暇なわけじゃないぞ。オマエの単位が足りなくなって留年でもしたら、目も当てられんと思ってるんだ・・・」

 

「退学してもいいと思ってる・・・」

 

事実、この頃は学校や単位など、どうにでもなれという気持ちだった。

 

「バカ言うな・・・オマエが良くても周りがどれだけ心配し、また迷惑しているか少しは考えた事があるのか?

で、本当のところはどうなんだ?

もし間違ってたら謝るが実は病気なんかではなく、昼間は元気にバイトでもしてるんじゃないのか?」

 

やはり担任の眼は、節穴ではなかった。

 

「それで・・・いつから出て来る気だ?」

 

「いつからって・・・まるで出ることが前提みたいに言うけど、もう出ないかも・・・」

 

「そうなのか・・・またどうして、こんな事になってしまったんだろう。残念ながらオレにはわからんし、結局はオマエ自身の問題ではあるが。ただ担任としてこれだけは言っておくが、オマエは随分と皆から慕われているらしいぞ・・・オマエのこと心配している声が、どれだけ沢山オレのところにまで聞こえてくる事か。いや、これは決して、オマエを出てこさせようとして、言ってるわけじゃないよ。オマエなりの考えがある事は、今こうして話をしたからオレに少しはわかった。しかし他の連中は、ここへ来るまでのオレと同様にサッパリワケがわからんからな。なおさら、オマエのことが心配なんだろうな」

 

 「オマエには、少なくとも彼らにその辺りの事情を、説明する責任があるんじゃないかな?

相手が納得しようがしまいが関係ないが、このままでは誰もがワケがわからないままだし、それは彼らからすれば友人として、なんとも寂しい話じゃないのか?」

 

担任教師ばかりかムラカミ、ゴトー、シゲオといった友人たちからも、再三電話があった事は言うまでもない。幼い頃からの無二の親友であり、また家も近いムラカミがクラスを代表する形で夜に訪問して来た時は、さすがに居留守を使うわけにもいかず、部屋に迎え入れた。

 

「よー。思った通り、元気そーじゃねーか」

 

普段は物に動じないこの男にしては珍しく、些かバツが悪いような眩しそうな表情をしていた。対して、こちらの方が案外と平然と迎えられたのは、このような場合やはり訪問する方がバツが悪いのだろうと思ったが、あるいは単に自分がズボラなゆえか。

 

「オマエが病気だっていう話は誰も信じてなくてな・・・ズルを続けて毎日なにしてんだろーって、みんなの噂になってるぞー」

 

「そうかい・・・んじゃ、ついでに優雅に温泉旅行に行ったり、ワーグナーやらアダンのジゼルでも観に行ってたりって事にでも、しといてくれよ」

 

「ハハハ・・・そうしとくか。それで、いつ戻ってくるんだ?」

 

「さあなー。永久に戻らんかもな・・・」

 

「オイオイ、本気かよ?」

 

「井の中の蛙、大海を知らず・・・鉄筋の檻で一度しかない貴重な時期を費消するより、世に出ればもっと有意義な生き方があるかもしれんからな・・・」

 

「まるで名古屋辺りにでも、働きに出てるような口ぶりじゃねーか。まあ確かに、色々ムダに思えるような学生生活ではあるが・・・これはこれで、案外人生に必要なモラトリアム期間なんじゃねーかな?」

 

幼いころから老成していたこの友は、常に物事を大局的に捉えて見るところがあった。

 

「どっちにしても、中退はヤバ過ぎるだろ?」

 

「全然ヤバくねーさ・・・いざとなれば「大検」だってあるしな。ろくでもないのでも大勢受かってるらしいから、あんなの楽勝だろ」

 

「そこまで言うんじゃ、話にならんな」

 

と、ムラカミが顔を顰めた。

 

 「ま、オレは人の事をゴチャゴチャと言いたかーねーが、クラスの連中が妙に煩くてな。オマエも大方、察しは付いてるだろーが

『家が近くて親しいオマエが、ともかく代表して様子を見に行って来いや!』  てな事になっちまいやがってな。

いや、クラスだけじゃなくサッカー部の連中の方が煩くてな。ゴトーなんぞ、毎日ようにオレのところに押しかけてきやがって

 

「オイ、にゃべはどーなってんだ?

今日も来てねーのかよ!」

 

ってな。一昨日くらいからは

 

「オイ、今日は帰りに一緒に乗り込むぞ!」

 

とか煩くてかなわん。実のところ、オレは他人の詮索など性に合わんし、どーでもえーと思ってるんだが」

 

と、ムラカミが挑発するように言った。

 

「そうそう・・・他人のことなどどーでもえーし、放っておくものだ・・・」

 

「オレもそー思うんだが、なにしろゴトーのヤローは、よっぽどオマエが気になるらしくてな。

『こういう時は、本人の気が済むまで放っとくもんだ』

といって、何とか宥めるのが大変なんだよな。

 

ゴトーが来るとなったら、当然サッカー部のガラの悪い連中を何人もゾロゾロと引き連れて来るんだろうから、直ぐにオマエのズルがばれて立場がなくなるだろうとか、これでもオレも気を使うんだぜ。

 

で、結局、家の近いオレが代表して行ってくるとなったわけよ。そーでもせな、なんしろ収まりがつかんしな。現に今日なんかは、ゴトーだけじゃなくてタカシマなんかもうち(のクラス)に来やがって『一緒に行こう!』ちゅーから、このまま冬休み明けも休みが続くようだと、連中大挙して押しかけてくるだろうよ」

 

ムラカミが遠回しに説得しているのは明らかだったが、この時点では「学校など、どーにでもなれ」という状態だから、何をいっても馬耳東風であることに変わりはない。

 

「ま、オレにはオレの考えがあるから、いかに説得されようともオレの意思は変わらん」

 

と宣言すると、さすがにムラカミも呆れたような表情で

 

「ちっ、勝手なことをほざきやがって!

オレがどれだけ連中の暴走を宥めるのに、苦労しとるのかも知らんとな。  オレはもう面倒見切れんし、クラスやサッカー部の連中にも義理は果たしたから、これで消えるぜ・・・もう2度と来ねーから、安心しろ!」

 

皆の気持ちを代弁しているかのように、ついに憤然としてムラカミが帰っていった。

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