冬休みが明けて数日後、久々の再登校となった、にゃべ。努めてさりげない様子を装っての登校だったが
「オオー!!w(*゚o゚*)
にゃべが来やがったぞ~~~~~!」
と、唐突の珍客(?)のお出ましに、早速クラス中にどよめきが起こったのは無理もない。
「オー、にゃべよー!
オマエ、生きとったんかー?」
「一体、1ヶ月近くも、どこほっつき歩いてたんだー?」
「オマエが病気だったなんて話は、誰一人信じとらんかったぞー」
「オレたちゃ、ブタ小屋に押し込められてつまらん日常の繰り返しというのに、オマエはえー身分だよなー」
などとマチャら男子学生らから、口々に罵られる。
険悪なムードは露ほどもなく、判で捺したようにどこにも笑顔の花が咲き乱れていたのが、なにより嬉しいことだった。当然ながら、何をおいても真っ先に訪れなければならないのが、畏友ムラカミである。
「よー、ムラ!
色々、心配かけてすまんかったな・・・」
と声をかけると
「おー、どーした?
オレの見立てでは、もう戻って来んと思っとったが・・・バイト、クビにでもなったんかい?」
と、あのギョロ目でほんの一瞬だけ、ジッと覗きこまれた。この時ばかりは目を逸らしていたが、これだけの「以心伝心」の間柄だけに、僅か束の間ではあったものの、その「本気度」を見抜こうと言う鋭い視線を感じた。
「えらい迷惑したのは確かだが、別に心配などしとらんかったから、まあ気にすんな・・・」
と憎まれ口を叩くと、なぜか逃げるように去っていった。
昼休み、食堂で一人弁当を食べていたにゃべの席に、男子どもが何人も集まってくる。その一人には、演劇部の新部長となったひょうきん者のフクザワの姿もあった。
「先生!
ホントのところ、なにしとったんか、エー加減、白状せーや!」
と例によって、周囲の目を存分に意識したポーズたっぷりの追及だったが
「だから、病気だったって言ってんだろ。しつこいな、オマエラも・・・軽い肺炎のようなのに罹ってな」
「あほ!
肺炎なら、もっとやつれとるわ!」
「だからもう、すっかり良くなったんじゃないか」
誰も信じてないのは承知で、あくまで病気で押し通す肚を決め込んむしかない。
当然ながら放課後には、サッカー部にも顔を出した。3年生は既に退部していたので、ここで油を絞られることがなかったのは救いだったが、サッカー部員にまた同じ説明をしなければならないところが辛いところだ。
キャプテンのドージマの巨躯が、やけに懐かしくも眩しい。軽く詫びを言うと
「まあ、特に言うことはねーが・・・」
と拍子抜けするほどあっさりしたものだったが、口の悪いゴトーらからは
「キミは誰?
見かけん顔だが、転校生かな?
サッカーがやりたきゃ、入部届けを出さんといかんよ」
などと、1週間くらいはしつこく皮肉を噛まされ続けた (*Φ皿Φ*)ニシシシシ
ゴトーとしては、小学生時代に
「オマエって、誰だっけ?」
とやられたあのトラウマが強烈だけに、そのしっぺ返しのつもりは明らかだったが、ここまで徹底した執拗さそのものが、実はゴトーの心配がいかに大きかったかの裏返しだと思えば、それほど腹も立たない。
「転校生のムトーでーす! (*`▽´*) ウヒョヒョヒョ」
などとふざけてやると
「オー! キミ、ムトー君か!
オレはゴトーだよ!」
と、大うけしていたが ヾ( >▽)ノ彡☆
副キャプテンのタケには
「ヒロはあんなヤツだから、なんも言わんかったろうが・・・オレは、メチャムカついたぜ! このツケは絶対に返せよ」
と凄まれた。
(ま、身から出たサビだから、しばらくは仕方がない・・・)
と、早速練習を始める。
バイト先で、どうにも払拭出来なかった違和感が、サッカーボールを追いかけて走る爽快感に変わって行く。
(やっぱりここが、オレには一番居心地の良い場所なんだ・・・)
と、改めてしみじみと実感した。
やがて日もとっぷりと暮れてクラブの練習が終わり、みな帰路に着いたが夜のグラウンドを一人、黙々とトレーニングに励むドージマの姿があった。そのストイックなまでに孤独な背中は、無言のうちにも何かを訴えているように見える。
(にゃべよ、甘ったれんじゃねーぞ!)
というように・・・
本来なら最も怒っていい立場の男だが、何ひとつ文句を言わない大きな背中を見ているうちに、急激に申し訳ない気持ちに突き上げられ、知らぬ間に
「ヒロよ・・・色々と迷惑をかけたな・・・」
と、声を掛けていた。
「座るか・・・」
と、向かい合って腰を下ろす。
「練習の邪魔したかな?」
「いや、そろそろ上がろうと思ってたとこよ・・・」
「なんつーか、すまんかったな・・・」
改めて詫びを入れると、ドージマは
「オマエの辞書にも「反省」という言葉があったんだな。むしろ、そっちの方に驚いたぜ・・・」
と、目を剝いた。
「で・・・問題解決ってことでえーんかいな?」
「うん、まあ・・・色々、思うところがあってな・・・所詮、現実逃避には違いねーんだろうけどな」
「うむ・・・オマエの考えとか行動は深淵すぎて、オレにはサッパリ理解できんが・・・要するに聞きたいことは、問題が解決したのかどうかだけよ」
「うん・・・それはだな・・・なんというか難しい問題なんだが・・・」
と説明しようとすると、ドージマがグローブのような大きな手で制した。
「まあ、えーってことよ。オマエの言葉など、元から信用しとらん。答えは、行動あるのみ・・・」
実際、常にそうしてきた男が言うだけに、腹にずしりと響くような説得力がある。
「うむ・・・」
「じゃあ、話はおしまいだ」
というと、山のような巨体がむっくりと立ち上がった。
この機に、この「大人の男」とじっくり腹を割った話をしたかったが、その時、背後から聞き覚えの独特の張りのあるソプラノが・・・
「にゃべー!
ちょーご無沙汰!」
そこには夜空をバックに、千春の大柄なシルエットが浮かんでいる。その背後からは、さらにひと回り長身のスリムな女学生の姿が、こちらへ向かって来るところだった。
「じゃ、オレは先に帰るぜ・・・」
「オイ、待てよ・・・」
と止める間もなく、気を利かせたか(?)ドージマが疾風のように去っていった・・・
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