ここまでは、みどり、カオリと女子の活躍ばかりが目立ったが、男子も負けてはいない。
最も健闘していたのは、御曹司率いるヨット部だ。カオリの体操やみどりの陸上、或いはにゃべっちのサッカー部や野球部などに比べ「ヨット部」というのはいかにもマイナーだけに、さしもの御曹司が率いているとはいえ、注目度は大きく下がるのは否めない。
が、元々『A高』ヨット部といえば、県内の名門であるばかりか全国大会の常連としても知られていた。しかも子供の時からヨットには造詣の深かった、あの御曹司がキャプテンを務めていただけに、この年の『A高』ヨット部は例年以上に強かった。実際にカオリ、みどりの両女子の蔭に隠れながらも、この年はインターハイと国体でダブル入賞の快挙を達成していた。
生徒会長タカミネ御曹司と言えば、タレント揃いの『A高』にあっても随一の人気者だけに、朝礼での報告会での皆の注目度は最高潮に達していた。
「残念ながら、あと一歩でメダルには届きませんでしたが、インターハイに続いて国体でも入賞の結果を残せました。ここまで頑張ってこられたのは、みなさんの期待や応援に支えられてのものだと思います」
と喝采を浴びるみどりに代わり、おもむろに登壇した御曹司。やはり壇上に上がっただけで、場の雰囲気を一変させるカリスマ性を備えた男だけに、たちまち男子の口笛やら女子の嬌声に包まれた。
「華やかな女子のエースに比べ、地味なヨット部ですが・・・」
と、まずは軽く笑わせると
「インターハイと国体いう2つの大きな大会で入賞という結果を残す頃が出来て、それなりに満足です。「それなりに」と言うのは表彰台を逃したからで、ここだけの話、密かに表彰台を狙ってました。しかし、ダメでした。とはいえ、2大会とも入賞出来たので「それなりに、良い結果」と言えます」
ここで大拍手が起こる。万雷の拍手が鳴りやむのを待って、御曹司の美声による独演会は続いた。
「ヨシノとノムラが、個人競技であれだけの成績を残したのには、最大級の敬意を表します。我がヨット部は彼女らとは違いチーム競技ですが、チーム競技には個人競技とは違った難しさや面白味があります。勿論、そんなことは野球やサッカーとかで百も承知でしょうが、ヨットのチーム競技というのは、これはまたひと味違った魅力がありまして・・・これを機に、ヨットの面白さにも目覚めてもらえたら良いなーと」
普段は、大言壮語や長広舌とはまるで無縁な奥床しい御曹司が、やはりヨットのことになると熱が篭るようで、いつにない名演説でやんやの喝采を浴びる。
さすがは「生まれながらの千両役者」、そして文武両道を見事に体現して見せたのだから
(やっぱり、凄い生徒会長だわい・・・)
と脱帽するしかない。
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