同学年で『オトコマエトリオ』と称されたのは、御曹司タカミネ、マキノ、にゃべの3人で、卒業文集の「三大オトコマエ」にも載ったほどだ。
このうちマキノは、お調子者による人気のせいで名を連ねていただけで、実際にオトコマエではない。むしろ、マキノなどよりは遥かにオトコマエと見られたのがフクザワである。
サラブレッドのタカミネは、どこから見ても別格としても、向き合う度に
(オレといい勝負では?)
と唸らずにいられなかったのは、フクザワである。
このフクザワはにゃべと同じA市の『D中』出身であり、同じ中学出身者の話では『D中』では最初から最後まで、殆ど成績トップを通したという秀才だ。
殆ど勉強などせずに、トップをキープして来たというから『B中』における自分と同様の存在だったと言える。
もっともフクザワの場合は、スポーツにも秀でていたわけではなかったから「神童」と呼ばれていたわけではなかった。
このフクザワと言う男が、大変な読書家であった。
当時から、誰にも引けを取らない読書量を誇っていた自分をも凌駕するほどで、しかもこっちがSFやミステリーなど、もっぱらエンターテイメント系を読み漁っていたのとは違い、世界文学全集や日本の古典文学、純文学などを系統的に読んでいた「本格派」である。
中学、高校ともに演劇部のキャプテンとなった演劇オタクだったが、特に入れ込んでいたシェークスピアの劇をアレンジして台本を創り、自ら演じるという「自作自演」は有名を通り越して、すっかり「名物」化していた。
なにより創作力が素晴らしかったが、演技もかなりオーバーな臭みはあったものの、役者顔負けの「名優」であるのは間違いない。完全に「自分の世界に入り込める」タイプなのである。
思い出すのが『A高』の推薦面接で、広い学区から選抜されてきた面々とあって、普段の中学で見ている同級生に比べ一癖も二癖もある顔ぶれが並ぶ中にあっても、やたらとキザなポーズで注目を集めていたのがこの男で、やはり生まれながらの「千両役者」だった。
性格は底抜けに明るく、こうした社交家に特徴的な非常に通りの良い声、そして際立った弁舌の爽やかさを持ち合わせる一方「瞬間湯沸かし器」の異名を取るように、非常に短気なところもあるという複雑な多面性を持っていた。
このフクザワと初めて会話を交わしたのは、入学して間もなくの学食でのことだった。
「おい、にゃべ!
オレと小学校の時に会ったことを覚えてるか?」
殆ど初対面と言う感じだったが、いきなり例の艶艶としたテノールで話しかけてきたのに戸惑いつつ、こちらも人見知りなどとは無縁だけに
「ん?
小学校?
知らんな・・・そんな大昔の話は」
と返すと
「やっぱり覚えてねーか・・・
まあ「最優秀賞」様は「優秀賞」風情に興味はねーってことか・・・」
と人懐っこい笑顔で、さも当たり前のようにスーッと対面に座を占めていた。
こうしたところが、この男の特技だろうが、この年頃の兄ちゃんには珍しいような実に洗練された流れるような動作で
(うむ・・・こいつが噂に聞くフクザワか・・・
確かに、どこか魅力的な男かも・・・)
と、密かに感心したものだった。
「ん?
てことは・・・あの作文コンクールの・・・?」
「作文じゃなく、読書感想文だろーが・・・」
それまでまったく気付いていなかったが、小学5年生で「最優秀賞」を射止めた「A市読書感想文コンクール(高学年の部)」で「最優秀賞」に次ぐ「優秀賞」を受賞していたのがフクザワだったらしい。
「優秀賞」3人のうち、フクザワ以外の2人は6年生であり、5年生の受賞者は「優良賞」の麻衣子を含めた3人である。
とはいえ冒頭のセリフはあくまで謙遜で、コンクール出展をサボってばかりいた自分とは違い、毎年作品を出していたというフクザワの受賞歴は凄かった。
まず小学1年(低学年の部)で、いきなり「優良賞」を得たのも凄いが、翌年には見事「最優秀賞」に輝き、全国審査に進んで「優秀作品賞」を受賞したというから筋金入りだ。
さらに3年、4年(中学年の部)と続けて「優良賞」、先に触れたとおり5年生は「優秀賞」、6年生は「優良賞」と、実にパーフェクトな受賞歴である。
また中学時代も2年生の時に「銀賞」を受賞、高校でも同じく2年生で「入選」を果たしていた。ちなみにフクザワと麻衣子は『D中』の同級生で、フクザワとは好対照のがり勉の見本のような麻衣子が、常にこの天才を目標としながら遂に最後まで勝てなかったことは有名だった。
もっとも、高校でも相変わらず演劇ばかりにのめり込んでいたフクザワは、遂に麻衣子に抜かれてしまったが。
0 件のコメント:
コメントを投稿